今にも水没しそうな島国、ツバルに日本としてどのような支援ができるか。19日都内で環境省、外務省主催の「太平洋島嶼国の環境と支援を考える国際シンポジウム」が開かれた。
ツバルを代表して、マタイオ天然資源・環境省環境局長が、「世界の中でも特に気候変動の影響を受けやすい脆弱なサンゴ環礁からなる島国」の窮状を訴えた。
マタイオ局長が挙げたツバルの現状は「高潮に対する最初の防御ラインであるサンゴ礁は熱ストレスに弱く、白化現象が毎年起こると予測されている」「サンゴの減少はタンパク源である魚種の減少を招く」「温暖化による海水温の上昇により、カテゴリー4から5のサイクロトロンが1975-89年に比べ、90-2004年には倍増したという報告がある」「南太平洋大学の教授によると今後30年のうちにツバルの一部地域に人は住めなくなる」「わずかな淡水層に海水が浸入することで、水不足に加え、タロイモやココナツなどの生育が難しくなっている」などなどであった。
マタイオ局長が、急を要する対策として挙げたのは、沿岸域の防護、水管理、エネルギー確保で、水管理には、地下の淡水層に海水を浸入させない防護策や雨水の回収法の改善策に加え、下水処理、家畜糞(ふん)尿の処理などが含まれている。
ツバルは毎年、2、3月が大潮の時季となる。「日本を初め各国からこの時季にジャーナリストが訪れ、写真や映像を撮っていく」(マタイオ局長)。こうした報道で、水没の危機に瀕するツバル、というイメージを刻みつけられた日本人も多いのではないだろうか。地球温暖化による環境の激変は遠い将来の話ではない。その被害を最初に受けるのは、脆弱な地域、ということを実感させるこうした報道が持つ意味は大きいといえよう。
一方、シンポジウムの傍聴者は、海面上昇という外から見て分かりやすい難題の背後に、ツバルがいろいろな社会・環境問題を抱えていることも理解したのではないだろうか。報道では、なかなか伝わらないような。
茅根創・東京大学大学院教授(沿岸海洋学・環境変動論)の講演によると、ツバルの一部地域の“冠水”は、降ってわいたような出来事ではないということが分かる。ツバルはサンゴ環礁でできた島の特徴として、外洋に面した沿岸部の高い地形、ラグーン(環礁に囲まれた浅い環湖)に面した高い地形、その間に広がる低地部から成っている。元をたどればサンゴや有孔虫の死がいである。シンポジウムの講演者でもある三村信男・茨城大学教授が20年以上前に現地調査したデータによると、外洋側の高地の高さは海面から3-4メートル、ラグーン側高地は2メートル、中央部の低地は1メートルないしそれ以下という。
南太平洋応用地球科学委員会(SOPAC=ツバルを含む南太平洋島嶼国とオーストラリア、ニュージーランドが加盟)の報告書によると、ツバルの海水面は、高潮時に平均海水面から1.2メートル高くなる。一方、温暖化の影響と考えられる海水面の上昇は、この50年間で10プラスマイナス5センチという報告がある。つまり、50年間の海水面上昇を織り込んでも「高潮時の水面上昇が、1.1メートルか、1.2メートルといった違いでしかない。標高から見て中央低地はもともと高潮時には冠水する区域」(茅根教授)というわけだ。
茅根教授によると、英王立協会の100年前の地質図によると、当時、首都フナフティのある島はラグーン側高地に100人程度の集落があるだけ。中央低地は沼地などからなり、海水がわきあがったという記載もある。なぜ、最近になって海水の浸水が大きな問題になったか。
太平洋戦争時の1943年に建設された飛行場のために、沼地だった場所が分からなくなってしまった。さらに1980年代からの人口増で、100年前には100人程度しか住んでいなかったフナフティの人口はいまや4,000人。かつて人が住んでいなかった湿地帯にも人が住み出したため、浸水が問題になるようになった、と茅根教授は言っている。
こうしたツバルの歴史はともかく、茅根教授を含めシンポジウムの講演者全員の考え方は一致していたように見えた。とにかく対策は必要、ということだ。その場合、ツバルが直面する地球温暖化による海水面の上昇というグローバルな課題への取り組みは、結局は、ツバルという地域の特殊性を考慮したものにならざるを得ない、というのも講演者に共通する思いのようだった。
人口増により増えた生活用水や豚の飼育に伴う汚水が垂れ流されている。これらの排水が海水の富栄養化をもたらし、サンゴや有孔虫の生育力を弱め、海水面上昇の最初の“防護壁”になる環礁、砂浜の成長を阻害している—。こうしたローカルな問題の解決も伴わないと、ツバルを水没から防ぐ実のある対策にはなりえない、ということのようであった。