レビュー

はしか流行は予想されたこと

2007.06.06

 はしか(麻疹)が若い世代に流行し、休講措置をとる大学が相次いでいる事態に対し「予想されていたことで、意外なことだとは思っていない」という村上陽一郎・国際基督教大学大学院教授の論説が、読売新聞6日朝刊解説面に載っている。

 村上氏は、予防接種について「個人防衛に役立つことは当然」とする一方「もう一つの重要な役割は、あらかじめ人々に接種しておくことで、社会全体のなかでの流行を抑えることである」という意義をあらためて指摘している。

 1948年にできた「予防接種法」が、特定の病気についてワクチン接種義務を市町村と国民に課したこと、76年の改正で罰則規定が削除されたため「実質上国民の義務は、努力義務になった」こと、さらに94年の大改正で「国民の接種義務は法律からは姿を消し、『接種を受けるよう努める』ことが明記された」という経緯を振り返っている。

 この変化について村上氏は「予防接種を『社会防衛』ではなく『個人防衛』と見る、という考え方の大転換であった」と指摘している。「ごくまれに起こるワクチン接種の副作用が、患者ならまだしも、本来健康な人への生涯を通じての障害につながることを恐れての改訂である」とも。

 この結果、「日本の予防接種率は、このところ著しく下がってきていた」ので、「多くの医療者は、数十年先の日本社会の感染症に対する抵抗力が、極度に脆弱なものになることを心配している」。

 「最近では国際的に『はしか輸出国』という汚名まで受けるようになっている」ことは、村上氏の指摘以前に、すでに新聞報道などで目にした人も多いのではないだろうか。

 結局、今回のはしか流行の問題は、国際的な責任にまで波及する「社会防衛」と、「個人防衛」のバランスをどう考えるか、という視点抜きには論じられない、ということだろうか。

 「国民の間の予防接種に対する理解にも、改善が必要ではないか」と、村上氏は提言しているが…。(読売新聞の引用は東京版から)

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