レポート

《JST主催》女子中高生の理系進路選択、教員や保護者へのアプローチも重要 サイエンスアゴラ2022より

2022.12.22

西岡 真由美 / ノンフィクションライター

 ジェンダー平等の達成が、持続可能な開発目標(SDGs)の1つに掲げられるなど、女性の活躍を推進する機運が国内外で高まりを見せている。科学技術振興機構(JST)においても、次世代人材育成の一環として、「女子中高生の理系進路選択支援プログラム」を平成21年度より開始。女子中高生が理系進路に興味を持つきっかけの創出や、キャリア形成のロールモデルを提示することにより、将来像の具体化を促す企画を公募し、大学や研究機関、企業などが共同で推進する取り組みを支援している。

 JSTが主催する「サイエンスアゴラ2022」では11月6日、上記プログラムの実施機関の教員や女子学生らによるパネルディスカッションが開かれた。プログラムのさらなる推進と、学生への効果的な支援を行うために、何が必要となるかを改めて問い直すことが狙いだ。会場には、高等学校教員や理系進学を予定する親子連れなどが集まり、熱心に耳を傾けた。

年齢の近い「りけじょ」との出会いが大事

 1つ目のテーマである「女子中高生に向けた効果的なアプローチ」について、令和2年度の実施機関である小山工業高等専門学校(栃木県小山市)からは、教授の柴田美由紀さんと准教授の髙屋朋彰さんが登壇。訪問型・招待型・体験提供型の3つのアプローチや広報誌の配布により、積極的な女子学生獲得に取り組んでいると報告した。

 物質工学科1年の佐野葵さんは「高専主催のサイエンスキャラバンに参加し、オープンキャンパスではOGの話を聞くこともできた。実験が大好きで、高専ではこんなに実験できるんだと感心したことが、進路選択のきっかけとなった」と振り返った。

小山工業高等専門学校が定期的に発行するパンフレット「MINERVA」を紹介する柴田さん(左、サイエンスアゴラ事務局提供)と、意見を述べる佐野葵さん(右)
小山工業高等専門学校が定期的に発行するパンフレット「MINERVA」を紹介する柴田さん(左、サイエンスアゴラ事務局提供)と、意見を述べる佐野葵さん(右)

 同年度の実施機関の一つである長崎大学教育開発推進機構生涯教育センター副センター長の酒井友文さんは、女子中高生への効果的なアプローチの鍵として「年齢の近い『りけじょ』と出会うことが大事。ロールモデルを見つけたときは、学生も保護者も目が輝いて見える」と述べた。

 長崎県立長崎北陽台高等学校校長の山口千樹さんは、プログラムを受け入れる立場から、連携協定を結んでいる組織同士の協力が、効果的な実施の鍵となる旨を強調。実施方法については、「理系への関心が薄い生徒にも情報を届ける意味で、中高生をプログラム実施機関へ招待するよりも、学校に来てもらう形式がよい」と手応えを語った。

 「学校に来てもらう出前授業は、女子だけでなく、男子も一緒に体験することに意義がある。女子の苦労や悩みが共有できる点もいいところではないか」というプログラム推進委員長で関西学院大学教授の加藤昌子さんからのコメントは、セッション後半でも議論のキーワードとなった。

「本物との出会い」で意識改革

 女子中高生の進路選択には、教員や保護者が後押しして道を拓く役割を果たすべきであり、大人のマインドチェンジも必要として、2つ目のテーマ「教員・保護者に向けた効果的なアプローチ」について意見交換が行われた。

 酒井さんは「教員や保護者の意識改革が何より課題」とした上で「本物との出会いや体験を用意すれば、学生だけでなく、多くの保護者の参加も得られる」と話し、反響の大きかった企画に、九州新幹線施工現場の見学会を挙げた。同企画では、現場で働く女性技術者らに対し、土木系分野へのキャリア選択のきっかけは何だったのか、関心を寄せる参加者が多かったという。

 同校では、他の理系分野に比べ、土木・機械系への女子学生の進学率が低く、こうした分野で女性がどのようにキャリア構築できるのか、ロールモデルを示す必要があることも示した。

 また教員へのアプローチについても、「本物との出会い」の重要性を指摘し、研修会などへ「りけじょ」を積極的に派遣していると続ける。教育委員会やプログラムの受け入れ先との関係構築にも力を入れ、永続していく地盤ができつつあると述べた。

小学生で面白さに目覚めた

 さらに、教員や保護者へのアプローチの時期に対する意見も重要と思われる。山口さんは、進路選択に対する教員や保護者の影響力を示唆するアンケート結果をスライドで示すとともに、「公立の高校生は、1年の1学期で文理選択を行うのが一般的。それを踏まえると、中学生へのアプローチが有効であり、相談相手となる塾の先生や保護者を巻き込むことが重要」と話した。

長崎北陽台高等学校のアンケート結果(長崎北陽台高等学校提供)
長崎北陽台高等学校のアンケート結果(長崎北陽台高等学校提供)

 佐野さんは「先生からの進学への不安に対する助言や励ましの一言で、私でも理系に進んで良いのだという安心感があった。後押しとなる言葉は大事だった」と話すとともに、小学校の理科で行った初めての実験が印象深く、面白さに目覚めたきっかけだったと振り返り、魅力的な授業や体験の重要性を再確認することとなった。

 同じく小山工業高等専門学校物質工学科1年の小沢玲音さんは、「私が『りけじょ』であることを母が知っており、同校のパンフレットを見せてくれた」ことが、進学の直接のきっかけだったと話し、保護者の理解と後押しが果たす役割についても共感を呼んだ。

薄らぐ男女・文理の二分概念

 パネルディスカッションと、それに続く参加者を交えた意見交換では「りけじょ」という呼称や、文系・理系と分野を二分する概念に対する話題の広がりがあった。

 セッションの途中で、酒井さんからは「好きなことをやるのに女子も男子も関係ない。そんなことを考えているのは大人だけだ、という意見をもらったことがある」という経験が共有された。

 佐野さんからも「プログラムを楽しんでいるときは、男女の違いを意識することはない」という意見が出され、属性を問わず、一緒に体験できるプログラムの提供が目指されるべきであるという意見で一致。

 また、理数科を文理探究科にしていく動きがあることなど、理系・文系といった進路の二極化の概念が薄らいできたことにも触れ、プログラムが、時代のニーズに合うものとなる必要があることも確認された。

キャリア形成に率直な問題提起も

 会場全体を交えた意見交換では、バイオ系ベンチャー企業に所属するという女性から「経営や企画に女性が関わることができず、昇給の機会も少ない」という、女性のキャリア形成に対する率直な問題提起が行われる場面も。

理系への就職を果たした女性からも、本セッションは注目された
理系への就職を果たした女性からも、本セッションは注目された

 「女性がしっかりと一流の専門家になっていくプロセスがなかなかできていない。そういう部分の強化も必要」と加藤さん。理系進路選択の先にある、女性が生き生きと働くことのできる環境、理想とするキャリア形成をかなえる仕組みなど、社会における受け皿の成熟が重要であるという視点に触れた。

「背中を押したその後」は?

 セッション終了後には、理系進学を考える娘を持ち、自身も研究職であるという保護者から「女性が働く環境はまだ決して良いとは言えない。例えば土木関連の仕事では、日本全国を回る必要があるが、女性は出産や育児などで従事することは難しい。男女平等をどう捉えるのか、生活をどうサポートするのか。具体的な提示が行えるよう、社会全体が変わる必要がある」との感想が聞かれた。

 また「大人が言うほど、中高生は『りけじょ』という言葉にこだわりがない」といったセッションの話題に通じる指摘もあり、プログラムの見せ方、提示の方法など、時流に合わせた変化が求められる様子も伺われた。

 サイエンスアゴラ2022では、同じく理系女子をキーワードとしたセッション「中高生集まれ!理系女子が少ない日本、どう変える?」も開催された。女性が気兼ねなく理系に進学・就職することで、社会がどう変わるのか、現在障害となっているものを未来に向けてどのように変えていけるか、を話し合ったばかりだ。

 女子中高生の理系進路選択へ「背中を押したその後」についても、議論が深化していくことを期待したい。

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