レポート

《JST主催》女性研究者がもっと活躍できるように〜第2回輝く女性研究者賞(ジュン アシダ賞)表彰式&トークセッションより〜

2020.11.27

増渕ふみ / JST「科学と社会」推進部

 科学技術振興機構(JST)は国内最大級の科学イベント「サイエンスアゴラ2020」で11月15日、日本科学未来館(東京都江東区)において第2回「輝く女性研究者賞(ジュン アシダ賞)」の表彰式とトークセッションを開いた。表彰式では女性研究者活躍への期待が熱く語られ、トークセッションでは進路や生活について話し合われた。一連の内容はユーチューブで配信中だ。

信念を貫き、きらきらと輝いてほしい

 輝く女性研究者賞(ジュン アシダ賞)の受賞者は、理化学研究所開拓研究本部主任研究員の坂井南美(なみ)さん。天文学と化学を融合した新たな分野で「太陽系のような環境は宇宙でどれほど普遍的に存在するか」という根源的な問題に切り込み、多様な太陽系外惑星の起源や惑星系形成の解明につながる革新的な成果を上げた。講演の講師などアウトリーチ活動に積極的に取り組み、女性活躍推進への貢献や後進育成について努力を惜しまず活動した。

 輝く女性研究者賞(科学技術振興機構理事長賞)の受賞者は、東京工業大学生命理工学院准教授の星野歩子(あゆこ)さん。がん細胞が放出する微小な物質「エクソソーム」が特定の臓器に転移するメカニズムに関与することを世界で初めて明らかにし、がん転移に関する診断や治療につながる革新的な成果を挙げた。さらに海外研究経験から、国境をまたいだ学生の受け入れを通じて世界で活躍できる研究者の育成に尽力した。

 輝く女性研究者活躍推進賞(ジュン アシダ賞)の受賞機関には、群馬大学が選ばれた。2014年度より理工学府の女性限定公募制度、2019年度より医学系女性研究者の「上位職ポストアップシステム」など地道な支援を展開し、理工学府博士後期課程の女性比率と全学の女性教員比率を増やした。大学が独自に研究費を助成した女性研究者は、その翌年度に公的研究費の採択率が高くなるという効果を確かめた。

 授賞式では坂井さんと星野さん、群馬大学学長の平塚浩士さんの3人に賞状と賞牌が授与された。坂井さんには副賞として賞金100万円が芦田基金から贈られた。同基金は1994年、ファッションデザイナーの故芦田淳さんが青少年育成を目的に設立した。

賞牌を手にする3人の受賞者。左から星野歩子さん、坂井南美さん、平塚浩士さん
賞牌を手にする3人の受賞者。左から星野歩子さん、坂井南美さん、平塚浩士さん

 表彰式でプレゼンターを務めた株式会社「ジュン アシダ」のファッションデザイナーである芦田多恵さんは「賞牌に書かれた『信じる道を一筋に進む、たとえそれが「人通りの少ない道」であろうとも』は父の言葉。父がデザイナーを目指したのは戦後間もない時代で、女性のファッションを男性がデザインするという批判のあるなか50年貫いたのは父の信念だった。お二方も信念を貫き、きらきらと輝いてご活躍いただきたい」と祝辞を述べた。

祝辞を述べるプレゼンターの芦田多恵さん
祝辞を述べるプレゼンターの芦田多恵さん

政財官学のバックアップが大事

 表彰式に先立ち、JSTの濵口道成理事長は「新型コロナウイルス感染症拡大のなか、素晴らしい方々に応募いただいた。受賞者の皆さんは故芦田淳さんの言葉と同じ思いで活動してきたのだろうと思う。信念を通すことの大変さとその意味をこの賞で改めて感じている」と挨拶した。

 特別来賓として招かれた参議院議長の山東昭子さん(元科学技術庁長官、女性科学者が創る未来社会議員連盟初代会長)は「世界規模で起こる様々な変化を想像力の起点とし、今起きている社会問題を整理し明日の新しい社会のための新しいアイデアと想像力を発信していくことが重要で、それを担っていくのは女性科学者だと信じている。JSTをはじめとして政財官学でバックアップすることが大事。女性科学者にとって環境改善されてきている一方でまだ難しいところもあり、それを乗り越えて活躍されることを期待している」と力強く励ました。

開会挨拶する濵口道成理事長(左)と特別来賓の山東昭子さん
開会挨拶する濵口道成理事長(左)と特別来賓の山東昭子さん

 来賓の衆議院議員、大野敬太郎さん(女性科学者が創る未来社会議員連盟事務局次長)は「女性研究者の皆さんには応援したくなるかっこよさがあるが、その裏側には困難を乗り越えて今の立場を勝ち取られたハードシップという前提がある気がする。ロールモデルが必要であるという一方で、女性研究者の活躍が普通であることも広めてもらいたいと思う。その普通を作っていくのが我々である」と強調した。

 来賓の文部科学省科学技術・学術政策局長、板倉康洋さんは「科学技術イノベーションの推進には多様な発想が必要で、女性研究者は不可欠であり、環境整備に取り組んできた。その結果、女性研究者の割合は2000年代始めに11%だったが、昨年度調査では16.6%になり着実に伸びている。女性研究者の活躍のための環境整備を一層進めていきたい」と語った。

 法務大臣の上川洋子さん(女性科学者が創る未来社会議員連盟会長)からは「少子高齢化人口減少社会のなか、国力を向上するためのイノベーションを起こすには女性研究者の活躍が不可欠、活躍できる支援体制について尽力したい」との祝辞が届いた。

来賓の大野敬太郎さん(左)と板倉康洋さん
来賓の大野敬太郎さん(左)と板倉康洋さん

ジェンダーを超えて誰も文句が言えない研究

 表彰にあたり、輝く女性研究者賞選考委員会委員長の鳥居啓子さん(米テキサス大学オースティン校 ジョンソン・エンド・ジョンソン センテニアル冠教授、ハワードヒューズ医学研究所 正研究員)のコメントと講評、各選考委員のコメントが披露された。

 鳥居さんは「新型コロナウイルスのパンデミックで在宅勤務中の家事負担による女性論文数が激減するなど性別による研究者の格差が露見したが、一方で、ノーベル賞では3人女性研究者が受賞し、化学賞では初の女性デュオ受賞となった。独創的で優れた研究をやっている女性研究者は日本にもたくさんいる。そういった女性研究者の育成に尽力する機関もたくさんある。ジュン アシダ賞は故芦田淳氏の思いを引き継ぎ、女性研究者を世間に見える化して若い世代へエールを送るものだ」とコメントした。

 選考委員からは「社会貢献の視点で審査しこれだけ素晴らしい方がいることに感銘受けた」「ライフイベントやアウトリーチ活動も楽しんでおり、女性研究者がいろいろなことに興味を持って日本に貢献していくモデル」「ジェンダーを超えて誰も文句が言えない研究をしている方。女性という共通だけでなく、極めて国際性の高い研究者だ」「群馬大学は女性の立場に立って一番良い環境を作っている」とのコメントがあった。

選考委員長の鳥居啓子さん(米国よりオンラインで参加)
選考委員長の鳥居啓子さん(米国よりオンラインで参加)

世界で知っているのは自分だけという楽しさ

 第2部のトークセッションは「私の未来、輝く女性研究者とともに」がテーマ。3人の受賞者と、東京都立立川高等学校と豊島岡女子学園高等学校の女子高校生2人がパネリストとして登場した。JSTの渡辺美代子副理事兼ダイバーシティ推進室長がファシリテーターを務めた。

ファシリテーターのJST渡辺美代子副理事
ファシリテーターのJST渡辺美代子副理事

 渡辺副理事は冒頭、「研究者になって何が楽しいか、何が大変か」と切り出し、坂井さんは「仮説と違う結果が出たとき、自然が教えてくれている、いまこのことを知っているのは世界で私だけだと思うと、とても楽しい。面白い結果に対しては反論も多くあり、それに対する証拠を集めて説得していくことは大変なところではある」と答えた。

 星野さんは「エクソソーム分野が新しく、以前はゴミを排出する機構だと思われていて、そのゴミが正常細胞に入ると細胞がベッドのようにふかふかになってがんの手助けをすることがわかってきた。これは自分しか知らないというワクワクがありたまらない。人の役に立ってよかった、といつか思える日を楽しみにしている」と述べた。

研究の楽しさと大変さを伝える坂井さん(中央)
研究の楽しさと大変さを伝える坂井さん(中央)

専攻したい分野と進路の悩み

 2人の高校生は「将来天文学に進みたいと思っていて地学を専攻したいが、地学で入れる大学が少ない悩みがある」「探求学習の熱心な学校でいろいろな分野を勉強してきた。これからの進路でどれを選ぶか悩んでいる」と進路についての不安を口にした。

 これに対し、坂井さんは「興味があってやりたい、それでいいと思う。自分自身も化学が苦手で物理でセンター試験を受けて、最初は物理学科に入った。天文学に進みたいという漠然とした希望に対して、その時の先生から天文の何をしたいか問われた時に太陽系研究だと思った。化学と天文学の融合は、物理のベースがあるから化学を使って物理現象を見つけるというオリジナリティが出た。軸足をずらして面白いことをやってほしい」と明るく語った。

 星野さんは「高校2年生で周期表を見て感動して化学を専攻したが、友人が骨肉腫になってがん研究へシフトした。その時には、がんセンターに行って学び、自閉症に興味を持った際には東大の先生に学ばせてもらった。自分の強い思いがあれば誰かが助けてくれる。複合的な研究者を目指してほしい」と期待を込めた。

自身の進路選択の経験を話す星野さん(左)
自身の進路選択の経験を話す星野さん(左)

妊娠と出産、米国ではサポート体制万端

 高校生からは「理系に興味のある女性も増えているように思うが、研究者となるとどうして減ってしまうのか」「育児との両立はできるのか」という素朴な質問もあった。

 坂井さんは「原因の1つはライフステージ。男女とも子どもをもつ時期は決まっているが、日本では女性だけポスドクでやめてしまう。細々でいいから続けると残れる。両立のためには、いかに周りを巻き込むか。1日1回でも研究を思い出してと指導教官から言われた。メールを見るだけで研究のタネは育ち続けて復帰が楽になった。指導教官は、何でも雑用はする、あなたができるサイエンスを続けなさいと言ってくれた」と振り返った。

 星野さんは「妊娠と出産を米国で経験したが、米国ではそれが当たり前のことと思っている。米国では産休育休が短くて出産直前まで働いて8週後に復帰したが、むしろサポートする体制、意識ができていると感じた。復帰前からオンラインミーティングに週1回でも参加するように言われた。最初は頭が回らなかったが、途中から感覚が戻ってきて、戻るときに違和感がなくなった」と自身の海外経験を話した。

男女ともに意識改革が必要

 平塚さんは「今はほとんどの研究機関でライフイベントから復帰した時に支援する取り組みがあるので、キャリアを断念しなくてはならないということはなくなっていくと思う。群馬大学では男女共同参画の取り組みとして、遅れている学部の教授に自分たちで考えて年度計画を作ってもらったり、女性にも自分自身が積極的に応募してもらったりした。男女ともに意識改革が必要だ」と取り組み事例を紹介した。

群馬大学の取り組み事例を紹介する平塚さん(中央)
群馬大学の取り組み事例を紹介する平塚さん(中央)

 閉会の挨拶として、JSTの佐伯浩治理事は「改めて女性研究者の力、そもそもの人としての魅力、研究者としての力を感じた。性別にかかわらず優れた研究者が思う存分力を発揮していただくことで初めて研究力が強化されると思っている。この歩みを進めるには、群馬大学のような優れた環境整備と合わせて、次世代の女性研究者に道を示すことが大事だ。JSTも引き続き進むよう努力したい」と締めくくった。

閉会挨拶をする佐伯浩治理事
閉会挨拶をする佐伯浩治理事

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