レポート

《JST主催》分野を超えた共創が不可欠、先駆者たちが試行錯誤の挑戦を語る サイエンスアゴラin京都

2023.03.17

宇佐見靖子 / SDGsライター

 JST(科学技術振興機構)主催の「対話で紡ぐ課題解決のアクション!〜コミュニケーションを起点とする共創的エコシステムとは〜」と題するセッションが、2月23日~26日の4日間にかけて開催された「第7回京都大学超SDGsシンポジウム サイエンスアゴラin京都」(同大主催、JSTなど共催)の初日に行われた。

 感染症の拡大や気候変動などさまざまな問題が山積し、人々の価値観を揺るがす混沌としたこの時代、持続可能な社会に向けた課題の解決には、あらゆる分野を超えた共創が不可欠だ。組織や専門、学問領域をまたぎ、対話を実践しながら、社会の課題解決や新事業の創出、所属に寄らない活動に取り組んでいる先駆者たちが、試行錯誤を重ねている挑戦について語り合った。

JST主催の「対話で紡ぐ課題解決のアクション!〜コミュニケーションを起点とする共創的エコシステムとは〜」は、京都御所近くにある江戸時代の学問所「有斐斎弘道館」で開催された
JST主催の「対話で紡ぐ課題解決のアクション!〜コミュニケーションを起点とする共創的エコシステムとは〜」は、京都御所近くにある江戸時代の学問所「有斐斎弘道館」で開催された

環境、医療、デジタルなどの5人、江戸時代の学問所に集結

 3年ぶりに対面方式で開催されたサイエンスアゴラin京都。「対話で紡ぐ課題解決のアクション!」のセッションは京都御所のすぐ近く、有斐斎弘道館で行われた。江戸時代の学問所で、芸術、科学、経済、哲学など多分野にわたる人々が新たな知を求めて集ったとされる場所だ。まさしく時代を超えて、多様性が生み出す可能性がここで語られた。

 セッションに登壇したのは次の5人だ。京都大学大学院地球環境学堂准教授の浅利美鈴氏は、「地域と地球社会における多様な対話と共創による化学反応(実験)」をテーマに掲げ、自身が専門とするごみ問題などの環境に関する課題について、地域と共創しながら、さまざまな取り組みを続けている。その共創事例の一つが「資源×デザイン×福祉」だ。現在、日本国内に4億枚近い着物がタンスに眠っているとされるなか、着物をリサイクルして付加価値を高めたスーツをデザイナーと創作。着物の解体は福祉事務所に委託し、新たな共創の形をつくり上げた。セッション当日も、カラフルな着物地を使ったスーツを自らまとって語った。

 がんという病気を取り巻く社会をよくしていこうと、医療、患者とその家族をはじめ、政策や情報分野などをつなげる活動をしているのは、東京女子医科大学特任准教授の北原秀治氏だ。DX(デジタルトランスフォーメーション)を活用し、仮想空間で当事者同士の経験を共有する「ピアサポート」を進めるなど、新しい当事者参画医療社会モデルを提案している。日本の科学を元気にするため、研究者、企業、学生らと共に日本科学振興協会の立ち上げにも関与した。

オンラインでセッションに参加した筑波大学の落合陽一氏
オンラインでセッションに参加した筑波大学の落合陽一氏

 そして、立場や組織の垣根を越えてつながり、イノベーションを起こすバーチャルカンパニーを設立したNPO法人ETIC.(エティック)のシニア・コーディネーター山内幸治氏、人間とデジタルの関わりといったデジタルネイチャーを研究する筑波大学デジタルネイチャー開発研究センター長・准教授の落合陽一氏、2025年の大阪・関西万博を共創のきっかけにしようと、誰もが活用できる万博を目指す「OPEN EXPO」に取り組む三菱総合研究所万博推進室室長の今村治世氏、と異なる分野の懸け橋となっているメンバーが顔をそろえた。

有斐斎弘道館に集った参加者ら。左から、三菱総合研究所の今村治世氏、ETIC.の山内幸治氏、東京女子医科大学の北原秀治氏、京都大学の浅利美鈴氏、セッションのモデレーターを務めたJST「科学と社会」推進部の瀧戸彩花氏
有斐斎弘道館に集った参加者ら。左から、三菱総合研究所の今村治世氏、ETIC.の山内幸治氏、東京女子医科大学の北原秀治氏、京都大学の浅利美鈴氏、セッションのモデレーターを務めたJST「科学と社会」推進部の瀧戸彩花氏

「多様な人々と共通の法則を見つけ出す」「調整役が必要」

 分野を超えた共創の動きを加速させて、さらに大きなうねりにするには、どんな工夫や人材が必要なのだろうか―。5人によるディスカッションはそんな問いかけから始まった。

 「異なる分野の人たちが集まるだけでは、多様性とは言えない。互いをリスペクトできるよう対話を重ね、共通の法則やキーワードをみつけてこそ、分野を超えた活動ができる」(北原氏)、「真ん中をつくらず多極分散型で進めること、多層へのアプローチが大事。小さなことでもいいので、一緒に体験することを積み重ねていく。会議室で会議ばかりやっていても、いいことはない。現場に足を運ぶことが大事」(山内氏)といった声があがる。

 「EXPO酒場」というユニークな取り組みを紹介したのは今村氏だ。大阪・関西万博を共創の起爆剤として多くの人に活用してもらえるようにと、組織を超えた場づくりを全国で進めている。「共創を成長させる手段として万博を生かしたい。そのためには、肩肘張らない時間を作ることも必要。相手の組織のことを知ることも大事」と付け加えた。

 共通認識を持っていても、なかなか伝わらないジレンマもある。その解決に必要なのは、仲介者の存在だ。落合氏は自身が進める障がい者支援「xDiversity(クロス・ダイバーシティ)」プロジェクト(AI技術による個人最適化技術と空間視聴触覚技術の統合を通して、人機一体による身体的・能力的困難の超克を目指す)を例に挙げ、障がい者コミュニティとの連携には、サイエンスコミュニケーターの存在が不可欠だと述べた。浅利氏は「場と場をつなぐ調整役がいることでイノベーションが生まれる。そのことをきちんと評価できるような仕組みも必要」と提言した。

「つながる重要性を次世代に伝えてきたい」「変であることも大事」

それぞれの活動をシェアしながら、さらに新しい共創の形を模索する
それぞれの活動をシェアしながら、さらに新しい共創の形を模索する

 セッションを通じて、登壇者はそれぞれ自らの気づきについて述べた。浅利氏は「小学生と一緒に地域の課題解決に取り組むと、その柔軟な吸収力に驚く。日本の教育は一つの正解にしばりがち。いろんな考えがあって良いと示していきたい」と語った。中高生向けの講演機会も多い北原氏も「専門分野を突き詰めるだけでなく、多様な人々とつながる重要性をこれからも伝えてきたい」と述べた。次世代の子どもや若者たちに、共創することの大切さを根付かせていくことが必要だ。

 山内氏は「地域、企業、研究者など、それぞれのセクターの価値をどう可視化していくか」を課題として示した。「変であることも大事」と言うのは今村氏だ。例えば、ある人が発言したことについて、組織の中ではおかしいと言われても、社会的にはとても重要なことだったりする。そこにきちんとスポットが当たるようになればいいのでは、と語る。共創の場として期待される大阪・関西万博のプロデューサーも務める落合氏は、万博プロジェクトをいかに面白くしていくか試行を重ねる重要性を指摘した。

 さまざまな共創に向け、誰もが「巻き込まれる」のではなく、どうすれば自発的に参加できるのか、共創への参加の定義を考える必要もありそうだ。

 有斐斎弘道館ではこのセッションに先立ち、世代や専門を超えた人々との学びの場「SDGs問答」も開催され、大阪・関西万博をいかに共創につなげるか、その中でどう京都を魅せるか、といった内容についても意見が交わされた。歴史や時代を超え、「集うことで生まれる価値」の重みを誰もが感じつつ、さらに共創を深めるためのアイデアあふれた時間となった。

苔むす有斐斎弘道館の庭。ここは時を超え、集うことから生まれる価値を育む空間だ。サイエンスアゴラin京都は、地域課題解決、SDGsの社会実装を目指す京都市と京都大学などが運営する「京都超SDGsコンソーシアム」とJSTが連携し、京都大学が主催している
苔むす有斐斎弘道館の庭。ここは時を超え、集うことから生まれる価値を育む空間だ。サイエンスアゴラin京都は、地域課題解決、SDGsの社会実装を目指す京都市と京都大学などが運営する「京都超SDGsコンソーシアム」とJSTが連携し、京都大学が主催している

関連記事

ページトップへ