レポート

次世代の若者の進む道の起爆剤に 〜第1回輝く女性研究者賞(ジュン アシダ賞)表彰式&トークセッションより〜

2019.12.09

早野富美 / サイエンスライター

輝きながら信念をもってこの道を貫いてほしい

 国内最大級の科学フォーラム 「サイエンスアゴラ2019」3日目の11月17日に、日本科学未来館(東京都江東区)で「第1回輝く女性研究者賞(ジュン アシダ賞)」の授賞式が行われた。授賞式後に催された受賞者と高校生2人を交えたトークセッションには約150人の参加者が詰めかけ、華やかな雰囲気を醸し出していた。

 初代の受賞者は合成生物学が専門の戎家美紀(えびすやみき)さん(European Molecular Biology Laboratory Barcelona グループリーダー)。研究拠点をスペインのバルセロナに置き、専門分野での研究成果はもとより、ヨーロッパと日本との間で研究者の交流促進など、社会貢献への積極的な活動も評価されたことが受賞につながった。

 機関賞としての「輝く女性研究者活躍推進賞(ジュン アシダ賞)」には九州大学が、そして「科学技術振興機構理事長賞」には深澤愛子さん(京都大学高等研究院物質—細胞統合システム拠点教授)が受賞した。

賞状を手にする3人の受賞者。左から2人目より、戎家美紀さん、九州大学総長の久保千春さん、深澤愛子さん。左は、賞を主催する科学技術振興機構(JST)の理事長濵口道成さん
賞状を手にする3人の受賞者。左から2人目より、戎家美紀さん、九州大学総長の久保千春さん、深澤愛子さん。左は、賞を主催する科学技術振興機構(JST)の理事長濵口道成さん

 九州大学は総長の久保千春さんが受賞者として出席し、3人の受賞者には賞状と賞牌が授与され、初代の「輝く女性研究者賞(ジュン アシダ賞)」の戎家さんには副賞の賞金100万円が「芦田基金」から贈られた。同基金はファッションデザイナーだった故芦田淳さんが1994年に青少年育成を目的に設立した。賞牌の楯には芦田さんが生前に残した以下の言葉が彫られている。

信じる道を一筋に進む、
たとえそれが
「人通りの少ない道」であろうとも。

 表彰式でプレゼンターを務めた「株式会社ジュン アシダ」でファッションデザイナーをしている芦田多恵さんは、「父、芦田淳が昨年88年の人生の幕を閉じ、この場に立つことはできませんが、生涯を通して社会における女性の活躍を支援していましたので、空の上からこの日をとても喜んでいることと思います」とあいさつした。また、芦田さんの生前の言葉は時代を切り開く(次世代の)研究者の日々の努力と貢献に通じるものがあるのではないか、などと述べ、今回の受賞者を前に「女性の可能性と未来に希望を感じた。まだまだ道は険しいと思うが、賞の名の通り輝きながら信念をもってこの道を貫いてほしい」とさらなる活躍に期待を寄せていた。

プレゼンターとしてあいさつする芦田多恵さん
プレゼンターとしてあいさつする芦田多恵さん

女性研究者が報われるような日本を作る

 表彰式に先立って、賞を主催する科学技術振興機構(JST)の濵口道成さんが開会のあいさつをした。日本ではまだまだ女性研究者の数は少ないことに悩んでいたところ、参議院議長で元科学技術庁長官の山東昭子さんから株式会社ジュン アシダを紹介され、この制度の準備が始まったことを明かした。募集には104人の女性研究者と12の機関から応募があったという。この制度をきっかけにして「女性研究者の励みになればいい」と強調した。

開会のあいさつをするJSTの濵口道成さん
開会のあいさつをするJSTの濵口道成さん

 次に特別来賓として山東昭子さんがあいさつした。これからの長寿社会に向けて、介護などで研究が遅れたり、研究を断念せざるを得なくなったりとさまざまな試練があるものの、自身の健康を第一に考えて研究に力を注いでほしい、などと語った。そして、「女性研究者の成果が報われるような日本を作り出していくことが、これからの日本の未来に向けてのパワーになる」とエールを送っている。

女性研究者にエールを送る来賓の山東昭子さん
女性研究者にエールを送る来賓の山東昭子さん

 もう1人来賓としてあいさつしたのが文部科学省科学技術学術政策局長の菱山豊さん。「多様な視点や発想を取り入れて科学技術イノベーションを達成していくには女性研究者の活躍促進に向けた環境整備がとても重要な課題」と指摘。そのために文部科学省では、大学や研究機関における女性研究者への支援の取り組み推進策の一つとして、女性研究者のライフイベントに配慮した研究環境の整備や上位職への積極登用に向けた取り組みを支援する事業がある、と紹介した。

文部科学省科学技術学術政策局長の菱山豊さん
文部科学省科学技術学術政策局長の菱山豊さん

成果を上げている人は誰なのかをきちんと認識するための賞

 この賞の選考に関しては輝く女性研究者賞選考委員会委員長の鳥居啓子さんと選考委員の1人である柳沢正史さんが講評を述べた。

 テキサス大学オースティン校Johnson and Johnson Centennial冠教授など数多くの肩書を持つ鳥居啓子さんは講評の前に、この賞がどのような賞であるのかを最初に検討し、この賞が「男女性別なく非常に個性的で独創的な研究をしていてその人でなければイノベーションは起こらない、そして将来性がある若手研究者に贈る賞である」と結論付けたと紹介。その上で、なぜ対象が女性なのかという点については、「女性が業績を上げてもその後ろには優秀な男性教授や上司がいるのではという偏見がある。成果を上げている人は誰なのかをきちんと認識して世間に伝える必要がある」とその理由を述べている。また、次世代の女子学生や研究者の「起爆剤になればいい」と選考委員会委員らの強い願いを代弁した。

講評を述べる選考委員会委員長の鳥居啓子さん
講評を述べる選考委員会委員長の鳥居啓子さん

 筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構機構長の柳沢正史さんは、アカデミア研究者の分野では大学生、大学院生、ポスドク(ポストドクター)のすべてで日本から海外に行く人が激減していると指摘。そのような状況の下で、初代受賞の戎家さんは海外に拠点を置く研究者として強いメッセージ性があると高く評価した。

講評を述べる選考委員の柳沢正史さん
講評を述べる選考委員の柳沢正史さん

将来の方向性が見えてきた

 表彰式が終了し、第2部は「世界で輝く 私の未来〜科学と社会と世界と〜」をテーマに3人の受賞者と2人の女子高校生を交えてトークセッションが行われた。

 パネリストは戎家美紀さん、久保千春さん、深澤愛子さん、鳥居啓子さんと2人の高校生。ファシリテーターはJST副理事兼ダイバーシティ推進室長で日本学術会議副会長の渡辺美代子さんが務めた。2人の高校生からは研究について率直な質問も飛び出して和やかな雰囲気での中でトークセッションは進行した。

ファシリテーターを務める渡辺美代子さん
ファシリテーターを務める渡辺美代子さん

 2人の高校生のうちの1人は将来研究者の道に進みたいという。「受賞した方を目の前にすると非常にキラキラと輝く存在」「私の目指す姿が具体的になってすごくありがたい場です」。もう1人の高校生はまだ将来は決めていないとしながら「将来の選択肢を広げようと思っているところに今回の機会をいただいた。理系に進んでみようかと思った」。授賞式に刺激を受けて今後の方向性が少し見えてきたようだ。

トークセッションの様子。2人の高校生も登壇して、研究者に素直な質問をぶつけていた
トークセッションの様子。2人の高校生も登壇して、研究者に素直な質問をぶつけていた

さまざまな生活スタイルで研究生活を送る

 2人の高校生は研究者の生活スタイルにも非常に興味がある様子で、どんな生活かを尋ねる単刀直入な質問に、夫と同じ研究室で一緒に研究しているという戎家さんは「研究室でも家の中でも始終研究の話をしている」と答えた。ライフワークバランスはとれていないかもしれないとしながら、「真に好きなことをしているという意味ではライフバランスのとれた人生を送っている」と生活は充実していることを強調していた。

自身の生活スタイルについて語る戎家さん
自身の生活スタイルについて語る戎家さん

 夫が単身赴任で5歳の子どもと2人で生活しているという深澤さんは、子ども中心の生活だという。1日が終わるとエネルギーを使い果たしてしまって、子どもと一緒に9時頃には寝てしまう。その代わり朝3時頃には起きて、そのときにできる仕事をする、などと紹介していた。子ども中心ではあるものの夜は6〜7時間はしっかり寝るようにして、研究室では研究に専念するメリハリのある生活でうまく時間をやりくりしているようだ。

プライベートと研究の両立について語る深澤さん(左)
プライベートと研究の両立について語る深澤さん(左)

 現在、夫が2人の子どもと生活し、逆単身赴任をしていると明かしたのは鳥居さん。帯同採用で、鳥居さんが先に赴任したため一時的なことだとしつつも、夫はシングルファザーとして大変な生活を送っているようだと自らの生活を披露した。

 さまざまな研究や生活のスタイルを聞いて少し驚いた様子の高校生たちに、渡辺さんは、研究者の生活は子どもの年齢によって変わり(研究中心の時期があっても)一生続くものではないとフォローしていた。久保さんは心療内科での経験から、ストレスは男性と女性では少し違うところに悩みがあるようだなどと語っていた。

留学は一度は意識して

 高校生たちはいろいろな生活スタイルに大変興味を持ったようだ。そして、「なぜ(大変な思いをして)研究者の道を選んだのか」「海外と日本の違いは」などと率直に質問していた。

 鳥居さんは海外と日本の違いについてアメリカの良さを強調。「意識、生活スタイル、研究者のタイプなどそれぞれにさまざまな違いがあっても、皆タフだし、目標に向かって乗り越えられるような非常に良いシステムがある」と述べ、「何かのキャリアを極めたい人は、一度はアメリカに行ったほうがいい」と勧めていた。

海外で学ぶことの意義を高校生に伝える鳥居さん
海外で学ぶことの意義を高校生に伝える鳥居さん

 バルセロナに住む戎家さんは、スペインは景色も気候も研究環境も素晴らしいと絶賛。「若い人に海外の大学院を見てほしい」と今回の副賞の100万円を使って来年の夏休みに戎家さんの研究室に日本の大学生1人を招待するという(※)。

「EMBLバルセロナの研究室で海外大学院の雰囲気を体験してみませんか」

 なぜ研究者になったのかについて深澤さんは、「大学受験の時、博士課程に進学する時など節目節目で自分が楽しそうだなと思う選択をしてきた結果」と答えていた。

 最後にパネリストらがそれぞれ次世代の若者に向けてメッセージを送った。「日本の大学生にはもっと海外留学を意識してほしい」と戎家さん。久保さんは「チャレンジ、チェンジ、クリエイションという3つの『C』で頑張ってほしい」。深澤さんは「周りの人からはいろいろなことを言われるかもしれないが、自分の好きなこととして自らの人生を楽しんでほしい」。そして最後に鳥居さんは「男女関係なく自分のやりたいことを生き生きとやってほしい」。

次世代に向けてメッセージを送る久保さん
次世代に向けてメッセージを送る久保さん

次世代の若者の心に残ったイベント

 閉会のあいさつをしたJST理事の佐伯浩治さんは「女性研究者は若い人たちの間では広がりつつもまだまだ数が足りない。この賞が女性研究者を増やすための力強い取り組みになることを期待している、と述べた。そして自身の考えであると前置きし、「いつの日にか、女性という冠を外して、最も白衣が似合う優れた科学者、それは芦田淳さんが(歩んでこられた)世界と繋がるような日が来るといいなと勝手に想像しています」と締めくくっている。

閉会のあいさつをするJST理事の佐伯浩治さん
閉会のあいさつをするJST理事の佐伯浩治さん

この日のすべてのプログラムが終了した後、会場内に訪れていた3人の高校生に、本日のイベントについての感想を聞いた。「興味本位で参加したが、普段聞けない話が聞けて良かった」「まだ将来何になるかは決めていないが、理系に進みたいので参加した。貴重な場だったと思う」「ダイバーシティ化が進む研究現場で自分なりに興味のあることを突き詰めて、新しいことを探していくことがこれから先は必要だと考えさせられた」と、それぞれしっかりとした口調で答えてくれた。次世代の若者がすでにキラキラと輝いているように感じた。

(サイエンスライター 早野富美)

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