レポート

科学のおすすめ本ー グローバル競争を勝ち抜く韓国の科学技術

2012.07.26

推薦者/サイエンスポータル編集委員

グローバル競争を勝ち抜く韓国の科学技術
 ISBN: 978-4-86345-131-5
 定 価: 1,200円+税
 編著者: 科学技術振興機構 研究開発戦略センター
 発 行: 丸善プラネット
 頁: 193頁
 発行日: 2012年6月30日

サムスン電子が、並み居る日本のエレクトロニクスメーカーを追い抜いて世界をリードする企業に急成長したことは、多くの日本人が知っている。韓国の科学技術がこの50年間でなぜ、どのように急発展したか、を分かりやすく教えてくれる本だ。急成長とともに積み残しになっている課題、問題点にも触れており、科学技術政策が一筋縄でいかないことを知るのにも役立つ本ともいえる。

韓国の科学技術振興が名実ともに大統領の強力なリーダーシップでなされてきたことが、まず詳細に明らかにされている。

李明博大統領は就任早々の2008年、国家科学技術委員会を新設する。しかし、これがうまく機能しないと見るや11年に、科学技術基本法を改正し、大統領直属の行政委員会とした。委員長と、委員のうちの2人を常勤とし、教育科学技術部内の一部部署(約30人規模で全て他の業務との兼務)にすぎなかった事務局を、140人規模の独立事務局とする。行政官でない専門家をスタッフとして多数採用し、各省庁からの出向者はノーリタンルールで出身省庁に戻れないようにした。この辺りは、せっかく原子力規制委員会をつくっても、府省から集める事務局員に即ノーリタンルールを適用できない日本とはだいぶ違う。

予算配分機能についても日本の総合科学技術会議より権限は大きい。初仕事となった2012年度科学技術予算作成は、日本の財務省に相当する企画財政部がそのまま認めた、など興味深い事実が紹介されている。

「低炭素・グリーン成長戦略」も、2008年の建国60周年慶祝行事で李大統領によって打ち出された。「このグリーン成長を通じて次世代が10年、20年と食べていける基盤をつくり出す」という大統領のあいさつにも、リーダーシップをみることができるだろう。

教育・人材政策においても興味深い歴史と現状が分かりやすく紹介されている。米国の大学、大学院への留学生の数も、大学生が8,940人で世界各国の1位、大学院生9,880人で3位(2009年の米科学財団公表数字)と日本をはるかに上回る。

小中高校生の留学が2000年以降急速に増え、2008年以降、リーマンショックなどの影響もあって急速に減ったという事実も興味深い。早期留学は母子で海外に移住し、父親だけが韓国に残って仕事を続けるケースが一般的という現実は、日本でも上映された映画「飛べ、ペンギン」(監督・脚本、イム・スルル)でもユーモラスに描かれていることなどから、日本でも知る人は多いかもしれない(2010年10月26日編集だより参照)。現在、家族の分離を問題視する声などへの対応として、韓国人も対象にした新たなインターナショナルスクールの設立や、既存のインターナショナルスクールへの韓国人学生の受け入れ規制緩和などが行われているというのも、韓国らしいということだろうか。母子で海外に行かなくても済むよう国内に同等の教育環境を整備するため、という理由からという。

「1997年のIMF(国際通貨基金)危機をスリムな経営体質を構築する好機として活かし、日本的経営に学ぶキャッチアップ型の姿勢から欧米型のマネジメント(人事・会計等)へ移行」
「人材育成策として、4千数百名の『地域専門家』が育っており、毎年選抜された300人が世界各地に派遣されている。活動成果の報告義務はあるものの、1年間自由に過ごしてよい」
「インド市場における鍵のかかる冷蔵庫など、顧客目線に立った新製品開発とブランドイメージの確立」
「市場調査→企画→商品開発→プロトタイプ作成→量産化を全て同時に行う開発体制『コンカレントエンジニアリング』導入による商品化リードタイムの大幅圧縮」

サムスン電子が世界をリードする企業となるまでの歴史と理由も、分かりやすく紹介されている。

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