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日本経済復活へ環境技術への投資を(北澤宏一 氏 / 科学技術振興機構 理事長)

2009.10.05

北澤宏一 氏 / 科学技術振興機構 理事長

科学技術振興機構 理事長 北澤宏一 氏
北澤宏一 氏

 この夏、国内環境技術への投資で日本の経済が復活すると私は予想する。

 産業革命以来、私たちの生活はそれ以前より何百倍も豊かになってきた。それは、私たち人類が生産性を向上させ、新機能を持つ製品を開発することによって、より多くの価値を手にできるようになったからとされる。「生産性向上と新製品開発」の繰り返しが経済を牽引(けんいん)してきた。

 しかし、日本は1990年代以降、「飽食の時代」「もの余りの時代」などとされ、未体験のGDP(国内総生産)停滞時代に突入している。「大量生産・大量消費時代の終焉(しゅうえん)」とも言える。それはそれでいいのだが、一つ困ることがある。

 GDP成長率が年2%を下回ると、失業率が上昇する。これは、社会の合理化が年2%くらい進むからで、生産量が同じなら同じ数の人員は要らなくなるからだ。私たちの社会は常に新たな価値を見出していかないと、失業問題に直面することが避けられない。

 新政権は、もの余り時代の新価値を「環境、子ども、教育、介護、地域振興」などに見出そうとしている。では、それを実現できる財源はあるのだろうか。

 日本の財政赤字はすでに巨額に積み上がっているため、税金から政府が直接使えるお金はほとんどないと言っていい。しかし実は、民間と個人が膨大なお金を海外に蓄えつつある。日本の対外純資産は2008年時点で250兆円に近い。過去20年以上にわたって、毎年の貿易黒字を約10兆円ずつ海外に投資してきたからだ。この投資からの所得が入ってくるため、経常収支の黒字は毎年20兆円に近くなり、これがさらに海外に貯(た)まる。

 円の上昇で日本の輸出産業は青息吐息であり、国内産業も振るわないため税収は増えない。このような悪循環から逃れるためには、まず内需を増やす必要があると私は考える。

 環境問題を国内で解決していくことは内需拡大の最も有力な候補である。海外に貯まっていくお金を国内に振り向けることで、財源は毎年20兆円近くあることになる。それは300万人余に達した失業者を解消していくのにもよい規模の財源であろう。

 環境分野で日本が20〜30年後を見越した新たな先進技術を高めていくことは、次世代の子どもたちへの贈りものにもなるはずだ。

(本記事は、信濃毎日新聞 9月28日朝刊「科学面」から転載)

科学技術振興機構 理事長 北澤宏一 氏
北澤宏一 氏
(きたざわ こういち)

北澤宏一(きたざわ こういち) 氏のプロフィール
長野県飯山市生まれ。長野高校卒、東京大学理学部卒、同大学院修士課程修了、米マサチューセッツ工科大学博士課程修了。東京大学工学部教授、科学技術振興機構理事などを経て2007年10月から現職。日本学術会議会員。専門分野は物理化学、固体物理、材料科学、磁気科学、超電導工学。特に高温超電導セラミックスの研究で国際的に知られ、80年代後半、高温超電導フィーバーの火付け役を果たす。著書に「科学技術者のみた日本・経済の夢」など。

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