インタビュー

第3回「国際援助の新たなモデルに」(三村信男 氏 / 茨城大学 地球変動適応科学研究機関長・教授)

2008.07.28

三村信男 氏 / 茨城大学 地球変動適応科学研究機関長・教授

「温暖化対策は2正面作戦で」

三村信男 氏
三村信男 氏

7-9日に行われた洞爺湖サミットでは、焦点だった「2050年までに温室効果ガス排出量50%削減」という目標設定が合意という形には至らなかった。しかし、「世界全体の達成目標」と性格付けられ、「ビジョンを共有」という言葉で首脳宣言に盛り込まれた。中国やインドなど新興国を加えた主要経済国会合の宣言にも、世界全体の長期目標を世界各国が持つことを是認する表現が入った。環境省の地球温暖化影響・適応研究委員会座長として、報告書「気候変動への賢い適応」をまとめたばかりの三村信男・茨城大学 地球変動適応科学研究機関長・教授に、賢い対応とは何かなど地球温暖化に対する効果的かつ現実的な対応策を聞いた。

―適応策という考えに立った実際の途上国援助というのは動き出しているのでしょうか。

昨年、外務省で適応策に関する有識者パネルの提言を出しました。それに続いて、今年3月にも気候変動問題に関する対外支援全般に関する提言を出しました。この中で強調したのは、気候変動への適応策と従来の開発協力の統合ということです。

これまで、この2つは別々に扱われてきました。途上国の気候交渉担当者は、先進国とやり合うことが仕事で、新規の援助を引き出したい。ところが途上国内の開発担当の人たちは、気候変動のことなど意識せずに従来型の開発の話をしているわけです。本当に気候変動で危なくなるのはどこか、どこに手を打ったらよいかという話し合いが自国内ではできていないのです。

たとえば、海岸に道路を作ってほしいという協力案件があったとします。しかし、今の気象条件に合わせてつくると気候変動や海面上昇によって壊れたり、使えなくなるということが起こりえます。ちょっと高く設計するだけでだいぶ違うのです。適応策というのはそういうことです。今の開発政策の中に気候政策を組み込む、適応の考え方を入れることは、国際協力の成果を長く維持するためにも非常に重要なことなのです。

逆に考えてみると、途上国が困っているのは、道路などのインフラが未整備とか、水に対するアクセス、保健のインフラがないといったものが多いのですが、それらはすべて適応策の分野でもあるのです。今の問題を解決しながら、将来にも備える。そのような考え方で、途上国への援助をするのが大事ですし、実際にできるのではないでしょうか。気候変動に対する援助の期待は途上国で非常に大きいわけですから。

研究者の立場から、適応策について考えると、第1にその国でどういう気候変動が起きるかという予測がまず必要になります。その上で、第2に影響を予測し、第3に脆弱な地域がどこかを特定しなければなりません。第4にどういう適応策が適切か、政策を策定し、最後に実施ということになります。最初の1、2、3の段階は、その国の研究力に関係することです。すぐにプロジェクト実施という話に行く前に、その国の人々自身が、将来の気候変動によって、自分の国のどこに危険性が潜んでいるかをしっかりと把握する力を持つことが重要だと思います。

日本には、地球シミュレータによる気候モデル、各分野の影響予測モデルなど進んだツールがありますから、そうした研究の中に入ってもらい、一緒にやる。そうした協力を通じ、科学的なベースをつくることと並行してプロジェクトの企画、実施を進める。そうした援助の形が必要ではないかと考えています。

―海外援助というと、最後の実施のところだけをやりたがる、ということをよく聞きますが。

私はそれでは駄目だ、と考えています。先方は最新式のものがほしい、一番良いものを持ってきてくれといいます。しかし、それですとどこかが故障したり、ちょっとした部品がなくなるともう動かなくなるわけです。自分たちで考えて一緒にやったものだったら、何とかかんとか工夫して動かすでしょう。

温暖化の影響を予測する段階から始めて適応策に対する支援をきちんとやると、日本の国際援助の新しいモデルがつくれるのではないかと思うんです。

総合科学技術会議も、最近、科学技術外交を提唱していますね。最新の科学技術研究の成果を移転することによって、その国の温暖化に対する予測能力を高め、最終的にプロジェクトの企画、実施にまでつなげることは、科学技術外交としてなかなかよい構造ではないかと思っています。

―平均標高が小さいため温暖化の影響を特に心配しているツバルなどから、日本政府へ強い支援の要請が来ているようですが。

ツバルはイエレミア首相が昨年12月に来日、福田首相に直接相談されました。福田首相もぜひ協力しましょうといわれ、具体的には、外務省、環境省、JICA(国際協力機構)などが協力しながら、一連の企画を進めているところです。これは今までにない新しいやり方ではないかと思っています。

ツバルでは、海岸浸食、水の確保、太陽エネルギーの利用といった課題が挙げられています。一番急を要する海岸の浸食については、浸食の原因や、どのような対策をとれば効率的に防止できるかについて調査をした上で、対策を立案することになっています。具体的には関与していないのですが、私もいろいろな形で相談にのっています。

(続く)

三村信男 氏
(みむら のぶお)
三村信男 氏
(みむら のぶお)

三村信男(みむら のぶお)氏のプロフィール
1949年生まれ、74年東京大学工学部都市工学科卒、79年東京大学工学系研究科都市工学博士課程修了、83年東京大学工学部土木工学科助教授、84年茨城大学工学部建設工学科助教授、95年茨城大学工学部都市システム工学科教授、2006年から現職。アジア、太平洋各国の気候変動の影響評価と適応策を探る国際共同研究多数。工学博士。

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