国際光年記念シンポジウム(2015年4月21日、日本学術会議第三部主催特別講演)から
最近うれしかったことは、2月に名古屋大学を訪問されたモンゴルのガントゥルム教育文化科学相から感謝の言葉をいただいたことです。「モンゴルでは遊牧している人たちの割合がものすごく高い。家を持たないのがモンゴルの文化だから、できるだけ続けたい。発電機はあるものの機器類の寿命が短いことから、なかなか子供たちに夜の明かりを与えられなかった。しかし、LED(発光ダイオード)と太陽電池、バッテリーを組み合わせることで、遊牧生活をしている子供たちが夜、勉強したり本を読んだりするための明かりを提供することができた。感謝する」と言われました。LEDの開発に関わった人間としてうれしいです。
LEDがこれほど普及するとは思っていなかったので、影響の大きさに味を占めて(笑い)地球環境問題の解決に貢献できないか、と考えています。特に注目しているのが、紫外線の光源となるLEDを使って何かできないだろうか、ということです。
深紫外光LEDで世界の水問題解決に貢献も
国連児童基金(ユニセフ)の調査によると、きれいな飲み水を得られない人たちが世界に7億7,000万人いて、特にアフリカ中部に多いということです。トイレや風呂、シャワー用の水を得られない人たちは26億人に上るそうです。ゴミは水をろ過すれば、取り除けます。しかし、細菌やウイルスは通り抜けてしまいます。もし、深紫外光LEDができれば細菌やウイルスを死滅させることが可能です。これまで強力な深紫外光を出せるLEDを作るのは難しかったのですが、長年の開発でようやくハイパワーのものもできるようになってきました。
深紫外光LEDを用いた流水型の殺菌装置と乾電池によって、きれいな水を求める多くの人たちに提供できるのではないかと考え、現在、深紫外光LEDを開発しているところです。
光療法への応用にも期待
健康に関わる面白い取り組みを紹介します。光に敏感なタンパク質が理学や薬学の研究者たちによって開発されている。青、緑、オレンジ色などにそれぞれ敏感な性質を持つタンパク質です。こうした光感受性タンパク質をマウスの脳の中枢部に入れ、頭蓋骨をちょっと切って小さなLEDを埋め込み、光をつけたり消したりするだけで、行動をほぼ完全に制御できるということです。実際に動画を見せてもらい驚きました。青い光によって活発に活動していたマウスが、オレンジの光に切り替えられたとたんにパタッと眠ってしまいます。
これを大学の授業に応用すると面白いかもしれないですね。うるさい学生たちをオレンジ色の光で眠らせ、あまり感度が良くない学生たちは青色で活発にさせたりして(笑い)。
冗談はさておき、アルツハイマー病や神経性の病気に光を使ったフォトセラピー(光療法)の効果が、動物実験で確かめられているそうです。光感受性タンパク質を用いる治療法も、光を利用した応用法として期待できるのではないでしょうか。
(小岩井忠道)
天野 浩(あまの ひろし)氏のプロフィール
浜松市生まれ。1983年名古屋大学工学部卒。88年名古屋大学大学院工学研究科博士課程単位取得満期退学、名古屋大学工学部電子工学科助手。名城大学理工学部講師、助教授、教授を経て、2010年名古屋大学大学院工学研究科教授。11年から名古屋大学赤﨑記念研究センター長を兼務。14年青色発光ダイオード(LED)を発明した業績に対し、恩師でもある赤﨑勇(あかさき いさむ)名城大学教授と、中村修二(なかむら しゅうじ)米カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授とともに、ノーベル物理学賞を受賞。工学博士。同年、文化勲章受章。