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社会変えるインフラに – ソーシャルメディアの未来(津田大介 氏 / ジャーナリスト・メディアアクティビスト)

2013.01.31

津田大介 氏 / ジャーナリスト・メディアアクティビスト

特別講演会「2013年はどう動くか?~ソーシャルメディアの現在と未来」(2012年12月14日、NPO法人ブロードバンド・アソシエーション主催)講演から

ジャーナリスト・メディアアクティビスト 津田大介 氏
津田大介 氏

 東日本大震災によってIT事業者を見る目が変わったと思う。5年前、10年前には虚業と思われていたのが「社会を変えるツールになる」と認識されるようになった。きっかけは、3・11だ。クラウドコンピューティングなどのネット情報技術が次々に現れたのが、2007年前後である。さらに政権交代で情報公開が進んだこともあり、これらが組み合わさって社会に大きな影響を与えるようになった。ソーシャルメディアが情報を発信することで、いろいろなことが動き出すようになったということだ。ネットだけで社会は変えられないが、現実を動かしているリアルな力と結びつくことで大きな相乗効果が表われたといえる。

 ソーシャルメディアの特徴は何か。これまでだれかとつながって行動する場合、大体は組織や地域にしばられていた。学校に入ればクラスや部活動で一緒だった友人、会社に入れば同じ部署になった人、後は飲み会や合コンなどで知り合った人など、要するに地域や組織にしばられたつながりである。

 ソーシャルメディアはそうではない。何かについてネットで調べていたら面白い情報があったのでフォローした。そのうちに発信者と会ってみようとなり、会ったら気が合って親友になった、といったことが起きる。これまではなら絶対に出会わなかった人たちがだ。

 話題になっている首相官邸前の反原発デモに集まっている人たちに対して行った調査がある。「何がきっかけでデモに来る気になったか」。この問いに対する答えの1位は、ツイッターだった。友達に直接誘われた「口コミ」や、フェイスブックなど4位までを合わせると80%になる。この中にマスメディアの影響は入っていない。これは6月末の調査だったが、その1週間前には民放の報道番組でも官邸前の反原発デモについては放映されており、一部の新聞も記事にしていた。調査結果から分かることは、デモに参加した人たちのほとんどが新聞やテレビで報道されても心は動かない。しかし、自分に近い人から「行こう」と誘われたので「じゃあ行こう」という気になった、ということだ。既存のメディアではなく、ソーシャルメディアによって大きな動きが生まれた象徴的な出来事ではないだろうか。

 とはいっても、まだまだマスメディアの力は圧倒的に大きい。テレビで視聴率を10%取ると1,000万人が見たことになるが、1,000万人の人が同時にネットに殺到したら、ダウンしてしまう。だから時間を分散して情報を送る方法をとっているわけだが、それでもまだテレビの視聴率に比べると同じ情報にアクセスする人の数は非常に少ない。新聞も経営は厳しいと言われるものの、いまだに大きな部数を持ち、影響力も大きい。話題になった11月29日の党首討論をネットで見た人の数は140万人だった。しかし、視聴率に当てはめると1.4%でしかない。もしテレビで放映したなら10%くらいは行くだろうから、まだまだ差は大きいことが分かる。

 ただ、新聞社にソーシャルメディアのようなことはできない。新聞社のウェブサイトは1日10万人くらいが見ているようだが、これは無料だからだ。有料にするとアクセスは1〜3%くらいに激減するということなので、もし10万人が見ているウェブサイトも有料にしたら途端に3,000人くらいなってしまうということだろう。

 一方、インターネットメディアの中でツイッターは、速報メディアと言ってよい。実際、米国ではツイッターはニュースネットワークとみなされている。米大統領選のテレビ討論で視聴者の感想をリアルタイムで受けたところ、1,030万のツイートがあった。オバマ陣営選挙対策本部は、これらを分析して次の討論のやり方を改善したという。ツイッターの良い所は、新聞や放送のようにお金もかからないし、放送局のように国の認可も必要ないことだ。

 橋下徹・大阪市長のツイートには90万人、孫正義・ソフトバンク社長のツイートには170万人のフォロワーがいる。重要なことは、有名人でもなくフォロワーの数が限られている人でも、他人の情報力を借りて多くの人に情報を伝えられる可能性があることだ。実際に30人しかフォロワーがいない人のツイートを孫氏が引用したため、一挙に170万人にその人の発信が届いたということが起きている。140字の速報に限っていることで、個人の発信が世界中、数千万もの人に届けられる可能性が出てきている。

 では、ソーシャルメディアはマスメディアと対立する関係にあるのだろうか。逆だ。連携しうる関係にある。情報の検証はプロである記者や弁護士、会計士といった専門知識のある人しかできない。ソーシャルメディアは、マスメディアの伝えるニュースに対して議論し、多様な視点を提供することができる。埋もれているニュースをマスメディアに提供する情報源にもなり、これを受けてプロのジャーナリストが取材するということが可能だ。3・11では、なかなかマスメディアが伝えないことを、ソーシャルメディアが頑張って伝え、それをマスメディアが伝える、ということが数多くあった。

 ソーシャルメディアの特徴は「共感」「リアルタイム」「新規性」にある。メディアでありつつ、コミュニケーションのツールである携帯電話や多機能携帯端末がより幅広くなったものと考えると理解しやすいのではないか。

 「共感」を意識して「リアルタイム」で「新規の」情報を発信することで、現実の社会を動かす。このように社会を変えていくインフラとなったソーシャルメディアを支えるのが、ブロードバンド事業者ではないだろうか。

ジャーナリスト・メディアアクティビスト 津田大介 氏
津田大介 氏
(つだ だいすけ)

津田大介(つだ だいすけ)氏のプロフィール
東京都生まれ、東京都立北園高校卒、早稲田大学社会科学部卒。大学時代から興味を持っていたパソコンやインターネットに関する記事をパソコン誌やインターネット誌に書くことから始め、2002年からブログ「音楽配信メモ」で音楽配信や著作権、音楽業界とインターネットのかかわりについて発信。07年インターネット先進ユーザーの会(現・一般社団法人インターネットユーザ協会)を共同で創立。メディア、ジャーナリズム、IT・ネットサービス、コンテンツビジネス、著作権問題など幅広い分野を対象とした執筆活動を続け、ソーシャルメディアを利用した新しいジャーナリズムをさまざまな形で実践している。06-08年文化審議会の著作権分科会小委員会専門委員。2012年関西大学総合情報学部特任教授。J-WAVE「JAM THE WORLD」ナビゲーター、NHK「NEWS WEV 24」ネットナビゲーターとしても活躍している。主な著書に「Twitter社会論-新たなリアルタイム・ウェブの潮流」(洋泉社)、「未来型サバイバル音楽論-USTREAM、twitterは何を変えたのか」(中公新書ラクレ)、「情報の呼吸法」(朝日出版社)、「動員の革命ソーシャルメディアは何を変えたのか」(中公新書ラクレ)など。有料メールマガジン「メディアの現場」配信中。

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