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最初に思ったことをやり通せ(瀬川浩司 氏 / 東京大学 先端科学技術研究センター 教授)

2011.08.05

瀬川浩司 氏 / 東京大学 先端科学技術研究センター 教授

FIRSTサイエンスフォーラム「ドリーム:未知の世界をつくる担い手は誰だ!」(2011年3月13日、科学技術振興機構 主催)講演から

東京大学 先端科学技術研究センター 教授 瀬川浩司 氏
瀬川浩司 氏

 今まで太陽電池のパネルというと、主にはシリコンを使った太陽電池がほとんどだ。屋根の上にある黒あるいは紫色の大きなパネル。あれが普通の太陽電池だが、われわれが研究しているのはいろいろな色素を使ってカラフルにもできるし、例えばステンドグラスのような形にもできる。これで性能もよく、安ければなお良いが、そこまですべてがそろっている太陽電池はまだ世の中にはない。

 太陽光の1時間分のエネルギーは、世界の年間のエネルギーの消費量を賄えるぐらいの量だ。太陽光は無尽蔵で、安全性は高い。立地も制約が少ないし、地域分散型なので例えば地震が起こっても被災地を除いて被害を免れる。小規模の設備投資でよく、簡単に設置でき二酸化炭素(CO2)も出さない国産エネルギー、といろいろな長所がある。ただし、日本の場合には2010年でまだ総発電量は3ギガワット、日本の電力需要のわずか0.5%にも満たない非常に少ない量しかない。これを増やしていくためには、系統への接続の課題とか、あるいは値段をどうやって下げるのかという問題がある。

 今の太陽光発電というのは値段がやはり高い。いろいろな会社が努力をして、1990年代ぐらいは1キロワット当たり370万円もしていたのが、2000年ごろには60万円くらいにまで下がってきている。ところが技術開発もなかなか厳しく、ここから先、なかなか安くなっていないのが現状だ。

 ここを何とか下げていくということで、いろいろなタイプの太陽電池がつくられている。シリコン、薄膜シリコン、CIGS(銅・インジウム・ガリウム・セレン)、その他いろいろな化合物半導体の太陽電池がある。この中で主に実用化されているのはシリコン結晶系だが、材料が高い、あるいは製造プロセスが高い。何とか安く、もっと用途を広げるためにカラフルでデザイン性もよい有機系の太陽電池が、今、注目されるようになっている。

 一つはわれわれが研究している色素を使った太陽電池だ。電極の上に酸化チタンという白い粉末を焼結した薄膜をつくり、色素をつける。この色素が光を吸うと光のエネルギーで電子が高いエネルギーを持ち、これを使って発電するというメカニズムだ。光のエネルギーが何%、電気になったかという変換効率は、数%から40%近くのものまで、いろいろあるが、今、有機系というのはようやく10%を超えてきたところ。もう少し効率を上げる必要がある。

 色素を使った太陽電池の面白いことの一つは、1層目と2層目に別々の色素を使った太陽電池を重ねてやると、効率が11%ぐらいの太陽電池をつくることができる。また普通のシリコン太陽電池だと、光が切れると当然止まるが、有機系の太陽電池は電解液を使っているので、光を切ってもつけても同じ向きに電圧がとれる。携帯電話に使われている二次電池が電解液を使っているのと同様だ。

 太陽電池の価格は、他の製品同様、まず工場の建設、製造のプロセス、材料の値段、それから人件費がかかわってくるが、製造ラインの中で何%、物をつくり続けるかが非常に大事。たくさん売れると劇的に安くなる。有機系の太陽電池の有利な点は、例えば同じような薄膜シリコンの太陽電池製造ラインの工場と、有機系太陽電池工場の値段を比べると、多分、10分の1ぐらいで済むことだ。耐久性が若干劣るので、その分を割り引いても半分ぐらいにはできるのかなと考えている。

 高校時代はほとんどテニスしかやっていなかった。インフルエンザで学校をサボっても部活にはちゃんと出ていた。それぐらい熱心だった。研究でも一生懸命になるということは、この時期に部活で一生懸命、頑張ったということがあるかもしれない。もう一つ言えることは、高校の時の運動部活動というのはやはりチームワークということではないか。テニスだからもちろん個人戦もある。しかし、日ごろの練習では仲間が強くないと自分も強くなれないから、真剣に戦う。対外的には団体戦ということで一丸となって頑張る。そういう戦いをしながら、自分の力も高めていくというのは、実は今の研究分野においても恐らく同じではないか。厳しいところで戦い合って、その中でいいものをつくっていくという高校時代の部活が多分、今につながって生きているかなと思う。

 研究というのは、「もっとやれる」、「まだ、ここまでやれる」、「もう少しできるんじゃないか」、という積み重ねで、結局、気がついたらこうなっていたというところがあるように思える。

 ただ、きっかけというのがあるという気はする。高校の教科書でも例えば当時、生物の教科書を見ると、光合成の話などが出ていた。当時の教科書はクロロフィルの分子構造か何かが生物の教科書に書いてあり、本当にこういう変な構造の分子がどうして光合成で二酸化炭素を固定化し、光エネルギーでもって炭水化物をつくれるのか、ものすごい疑問を感じた。そういうことを一生懸命、勉強しようとどんどんやっていくとまだ分からないことが次々に出てくる。そこを突き詰めて、気がついたら研究者になっていたというのが本当に正直な話だ。

 京都大学2年生の時、同じ学科の教授をされておられた福井謙一先生がノーベル化学賞を受賞された。私が使っていた教科書にサインしてくださいとお願いし、達筆で一言「初一念」と書いていただいた。最初に思ったことを最後までやり通せということだ。それが私の家宝になっている。

 私は太陽電池だけじゃなくて光合成のモデルもやったし、膜分離も昔やっていたことがある。DNAの合成もやった。いろんなこともちょっとかじりながら、いろんな知識を身につけて、最後にそういうものがいろいろ形で役に立ってくるということだと思う。ただ、自分が最初に思った光エネルギーをどうやって電気とか化学エネルギーに変換するのか。この最初に思ったことがずっと今まで柱として残っている。

 研究をやるには何のためにその研究をやるのかというところがものすごく大事だ。今は本当に大変な時代で、エネルギーも重要な課題になっている。研究の目標としては例えば太陽電池で効率が何%とか、あるいはどれだけフレキシブルで性能の高いものをつくれるかだけでは駄目で、その先に本当に日本のエネルギーにどれだけ貢献したのかというところまで、問われると思う。

 これから世の中で必要になるものは何か。それに向けて科学者が何を準備していかなければいけないのか、を十分考えてやることだと思っている。

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東京大学 先端科学技術研究センター 教授 瀬川浩司 氏
瀬川浩司 氏
(せがわ ひろし)

瀬川浩司(せがわ ひろし) 氏プロフィール
神奈川県立湘南高校卒。1989年京都大学大学院工学系研究科分子工学専攻博士課程修了(工学博士)、京都大学工学部分子工学教室助手。東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻助教授を経て、2006年から現職。2010年度からスタートした最先端研究開発支援プログラム(FIRST)で30課題の一つに採択された「低炭素社会に資する有機系太陽電池の開発-複数の産業群の連携による次世代太陽電池技術開発と新産業創生」の中心研究者を務める。

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