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新しい価値生み出す化学(野依良治 氏 / 化学オリンピック日本委員会 委員長、理化学研究所 理事長、ノーベル化学賞受賞者)

2010.07.27

野依良治 氏 / 化学オリンピック日本委員会 委員長、理化学研究所 理事長、ノーベル化学賞受賞者

第42回国際化学オリンピック(注)開会式(2010年7月20日)あいさつ から

化学オリンピック日本委員会 委員長、理化学研究所 理事長、ノーベル化学賞受賞者 野依良治 氏
野依良治 氏

 真理を追究する科学は、文化の重要な要素の一つであり、また人類の生存のために不可欠であることは皆さま同意されるところであると信じています。ポール・ゴーギャンの有名な絵に「われわれはどこから来たのか、われわれは何者か、われわれはどこへ行くのか」と題するものがあります。科学はこの問いに対して真正面から答えようとするものです。

 科学は、まず人間自身、そしてわれわれを取り巻く自然環境と社会環境の真実を客観的に知るためにあります。そして、科学知の活用による技術の創出は現代文明の礎です。さらに近未来には、優れた科学技術(science-based technology)は産業経済を越えて、人類生存の鍵を握ることになります。

 現代社会は、地球の枠組みを超える過大な人間活動の暴走により、あらゆる局面で行き詰まりを迎えていますが、化学は私たちの未来を開拓する重要な科学分野です。なぜなら、化学は物質の科学だからです。私たち化学者は、まず森羅万象を原子、分子レベルで理解します。そして新しい化学反応を発明して、優れた性質や機能を持つ物質を創造し、必要量供給することができます。化学は単なる「観察の科学」ではありません。化学者たちは、自らの英知で新しい価値を生み出すのです。まさしく今回のテーマ「Chemistry:the key of technology」なのです。

 近代オリンピックの父と呼ばれるピエール・クーベルタン男爵は、「スポーツを通じて心身を向上させ、さらに文化・国籍などさまざまな差異を超え、友情、連帯感、フェアプレーの精神を持って理解し合うことで、平和でよりよい世界の実現に貢献する」と提唱しました。

 科学は本来、真実を追究するものであり、スポーツのように、競技者同士が戦って勝ち負けを決めるものではありません。しかし、化学オリンピックに選ばれて参加する皆さんは、ぜひオリンピック精神にのっとり、フェアプレー、ネバーギブアップの精神で大会に臨まれることを望みます。さらに新しい仲間たちとの友情を育み、知の旅を楽しまれることを期待します。

(科学新聞 中村直樹)

注) 国際化学オリンピック
年に1度、世界の高校生が創造性を発揮し、化学の力を競う国際イベント。第42回目となる今回、初めての日本開催(東京・国立オリンピック記念青少年総合センター、7月19-28日)となった。68の国と地域から267人、日本からは4人の代表選手が参加。

化学オリンピック日本委員会 委員長、理化学研究所 理事長、ノーベル化学賞受賞者 野依良治 氏
野依良治 氏
(のより りょうじ)

野依良治(のより りょうじ)氏のプロフィール
灘高校卒。1961年京都大学工学部卒、63年京都大学大学院工学研究科修士課程修了、同大学工学部助手、68年名古屋大学理学部助教授。同理学部長、物質科学国際センター長などを経て、2003年から理化学研究所理事長。科学技術振興機構研究開発戦略センター首席フェローも兼務。工学博士。06年には教育再生会議の座長を務める。医薬品、農薬、香料などの工業生産に広く応用されている金属錯体触媒による不斉合成反応の研究業績で2001年ノーベル化学賞受賞。1995年日本学士院賞受賞、2000年文化勲章受章。

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