公開討論「イノベーションと規制を考える」(2009年11月3日、「イノベーションと規制に関する検討会」主催)開会あいさつから
今、大きな期待が寄せられているイノベーションとは、産業、生活、社会とその構造を変えることだ。一方、現在の社会の基盤となっている制度や法律は現状を反映したものである。従って社会や世界の変化にこれらの制度や法律の対応が遅れがちになるのも当たり前といえる。
では、どのような対応が必要になるかだが、その一つは、政治への専門家によるアドバイザー機能の強化であろう。規制の変更は利害関係を伴う。それを克服する国の意思決定過程の明確化が望まれる。
二つ目の対応は、イノベーションに並行、ないし先行して制度や法律を変えることだ。
注意すべきことは、分野やテーマによってその対応が異なることである。しかしながら、未来志向と長期的視点を持つことが欠かせないこととなる。政治家や官僚、企業経営者などは職責上、短期的な成果を希求しがちだからだ。
また、規制にかかわる国の組織の連携を求め、責任を明確化させることも重要だ。
これらの対応を通じ、最も重要視されるべきことは、社会における創造の重視ということではないだろうか。
阿部博之(あべ ひろゆき)氏のプロフィール
1936年生まれ、55年宮城県仙台第二高校卒、59年東北大学工学部卒、日本電気株式会社入社(62年まで)、67年東北大学大学院工学研究科機械工学専攻博士課程修了、工学博士。77年東北大学工学部教授、93年東北大学工学部長・工学研究科長、96年東北大学総長、2002年東北大学名誉教授、03年1月-07年1月、総合科学技術会議議員。02年には知的財産戦略会議の座長を務め「知的財産戦略大綱」をまとめる。現在、科学技術振興機構顧問。総合科学技術会議議員退任後、科学技術のあり方を根本から問い直す研究会を主宰し、活動成果を「科学技術と知の精神文化-新しい科学技術文明の構築に向けて」(科学技術振興機構社会技術研究開発センター編、丸善、09年)に。専門は機械工学、材料力学、固体力学。