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総合科学技術会議が真の司令塔になるために ? 筆頭議員としての経験に一部反省を含めて -

2013.03.27

阿部博之 氏 / 科学技術振興機構 顧問、元東北大学 総長

科学技術振興機構 顧問、元東北大学 総長 阿部博之 氏
阿部博之 氏

 総合科学技術会議(CSTP)のあり方や改革が議論されている。CSTPの機能強化を考える場合、法律などによるルールの整備と実行面(運用/リーダーシップ)の強化の二面の議論が必要であることを指摘しておきたい。以下、いくつかの事項について箇条的に述べる。

(1) CSTPのさらに強化すべき役割

a.国と人類の未来を構想する
科学技術の特性として、緊急対応を要する短期的なものも少なくないが、多くは中長期的である。政治の関心や各府省の政策がしばしば短期的になりがちであることを考えると、CSTPは、短期から長期にわたるバランスの取れた基本戦略に注力すべきである。

b.イノベーションの創出と経済競争力の増強に向けて
研究開発費の重要性に加えて規制や社会システムなどのさまざまな改革が必要であり、これについては特に府省にまたがる案件を議論することができるCSTPの責任は大きい。

加えて科学技術政策は、安全保障、医療、人材育成の向上/振興に大きく関わっている。これらは長期的に見れば経済競争力の増強と重なるが、短期的に見るとしばしば相反する。筆者がCSTPの議員時代、経済財政諮問会議の有識者議員と何度か意見交換を行ったのはこのためである。今後は関係会議のメンバーとさらに頻繁に議論することを有識者議員に期待したい。

c.特に高等教育の高水準に向けて
確かに日本の大学などには世界水準の研究者が少なくない。しかしながら大学および大学を取り巻く諸システムや慣行は、残念ながら海外の優れた若手研究者や留学生を惹(ひ)きつけているとはいえない。この改善には文科省に加えて他省や自治体などの協力が必要であり、そのためのCSTPのリーダーシップが望まれる。

d.予算配分権
科学技術予算の基本方針の議論はCSTPの役割であろう。一方、配分権の具体の行使はリスクを伴う。その一つは、事務量の大幅増である。事務官だけでなく、議員も忙殺される。配分権を持つ場合には、基本戦略のようなCSTPに本来期待をされていた仕事がおろそかにならないように配慮をすることである。

e.選択と集中の必要性と多様性の重視
次世代のイノベーションのみならず、社会の安全保障や教育の分野でも多様性が国の競争力に深く関わっている。選択と集中と多様性をどうバランスしていくかが問われている。

f.知的財産戦略の再強化
イノベーション戦略にとって知的財産戦略は不可欠である。単に特許を取得すればよいということではない。筆者がCSTPの議員当時は、CSTPと内閣官房の知的財産戦略本部の双方の有識者のまとめ役を筆者が担っていた。現在は知的財産戦略に関わるCSTPの役割は大幅に低下し、知的財産戦略本部の国家戦略も無難なものに推移している。

特にここ5,6年、韓国、中国の台頭もあって、日本の国際的地位は低下している。いずれにしてもこれまでの事情を乗り越えて、国の体制を再整備しなければならない。

g.CSTPは総理大臣が議長であることを再認識すべきである
このことから有識者議員が取り上げる議題も精選される。

(2) 科学(技術)顧問(サイエンス・アドバイザー)

 政治の科学技術への依存度は増大の一途である。総理大臣への助言機能の強化は、当然これを図っていかなければならない。

 筆者が務めた筆頭議員は、法律上のポストではないが、必要上その任にあり、不十分ながら実質上科学顧問の役割を負っていた。その一端を述べてみたい。

 当時はほぼ毎月のように総合科学技術会議(本会議)が開かれており、それに向けて前もって総理の執務室に参上し、お考えを伺うのが慣例であった。科学技術政策においては、府省の意見が一致しない重要案件もあり、執務室での面談は極めて有用であった。

 一方、以上述べたようないわば運用上の科学顧問ではなく、法律上の役職に変更する意義はもちろん大きい。しかしながらいずれの場合においても、総理の信任を得ることが肝要であり、また総理に多忙な時間を割いていただく価値のある面談でなければならない。

 筆頭議員として毎月のように総理と意見交換ができたことは、CSTPならびに科学技術政策の活性化につながったと認識している。

 科学顧問は常勤であり、CSTPの議員であるべきである。CSTPの司令塔機能の強化と一元化のための必要条件であろう。

 科学顧問と科学技術政策担当大臣との役割分担も課題である。このことは何のために科学顧問を設けるのか、の議論と重なる。筆者は、科学者は担当大臣と異なり、助言者としての役割を重視すべきであると考えるがいかがであろうか。

科学技術振興機構 顧問、元東北大学 総長 阿部博之 氏
阿部博之 氏
(あべ ひろゆき)

阿部博之(あべ ひろゆき)氏のプロフィール
東京都生まれ、宮城県仙台第二高校卒。1959年東北大学工学部卒、日本電気株式会社入社(62年まで)。67年東北大学大学院工学研究科機械工学専攻博士課程修了、工学博士。77年東北大学工学部教授、93年東北大学工学部長・工学研究科長、96年東北大学総長、2002年東北大学名誉教授。同年政府の知的財産戦略会議座長として知的財産戦略大綱をまとめる。03年1月-07年1月、総合科学技術会議議員。07年1月科学技術振興機構顧問、10年1月同機構知的財産戦略センター長。専門は機械工学、材料力学、固体力学。米工学アカデミー外国人会員。

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