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テクノロジーとソーシャルビジネスで貧困ゼロ、失業ゼロ、炭素排出量ゼロの世界に

グラミン銀行を創設し、ノーベル平和賞を受賞した経済学者 ムハマド・ユヌス 氏

掲載日:2017年12月1日

「サイエンスアゴラ2017」(科学技術振興機構主催)基調講演(11月24日)から

ムハマド・ユヌス 氏
ムハマド・ユヌス 氏

ご紹介ありがとうございます。ご紹介の通り、私は科学者ではありませんが、このような形で呼んでいただき、お話をする機会もいただき、たいへん光栄です。(本日は)「私たちがどのような形で苦労しながらやってきたのか」を学問的にではなく、経験に基づいてお話をしたいと思います。

システムを変えることで貧困問題を解決する

最初にやりたかったことは、非情な高利貸しから人々を守ることでした。(高利貸しは)「ローンシャーク」「サラ金」とも言われますが、1000%とか2000%とか3000%の金利を取ります。「私がお金を貸していけば、そういった高利貸しのところに行く必要がなくなるので問題が解決する」と思ったのです。私自身のお金を貸し付けることから始めました。たいへん人気が出ました。それがその後、村を変え、バングラデシュ全体を変えたことの始まりでした。多くの国々も変わりました。それがマイクロクレジット(少額融資)のグラミン銀行なのです。

グラミン銀行というのは「村の銀行」という意味です。従来型の銀行は都市部でしかビジネスをしませんが、バングラデシュには8万の村があり、それがバングラデシュを形成しています。銀行は村には来ず、お金持ちにお金を貸すだけです。ですから(グラミン銀行では)村の人だけにお金を貸すことにしました。借り手のほとんどが女性で、本当に貧しい人たちばかりです。返済率は非常に高いです。担保も取りませんし、契約もしません。アメリカでも同じようにグラミンアメリカというのがスタートしました。20の支店がアメリカにはあります。そしてニューヨーク市だけでも7つの支店があります。多くの借り手がいますが、100%女性です。(貸付額は)最初は、5万ドルぐらいからスタートします。そのお金によって女性の生活が全く変わります。そこからマイクロファイナンスのアイデアがさまざまな国に広がっていったのです。

(そこで私は)「なぜこういった人たちはこんなに貧しいのか」という観点から考えました。その人自身のせいで貧困になるのではなく、私たちの周囲にあるシステムによって貧困になっているのだ、ということが明らかになりました。盆栽の例を使います。森林の中の高い木の種を小さな植木鉢に入れると、高い木にはなれません。これを盆栽と呼ぶのですが、貧しい人たちというのはこの盆栽に例えることができます。つまり、彼らの種には全く問題ないのに成長するスペースを与えられなかったわけです。貧困は社会の責任です。どういったところに問題があるのでしょうか。制度的な、例えば銀行のシステムが彼らをカバーしていなかったのでは、と私は考えます。私たちはそのシステムを変えようと金融サービスを提供したのです。それによって彼らはとても活発になりました。

他にもたくさんの問題がありました。健康の問題、教育の問題、雇用の問題などです。私はそれらから逃げるのではなく、対応するために「ビジネスを作る」。そのことを続けてきました。それは問題を解決するためのビジネスで、「ソーシャルビジネス」と名付けました。(そこで私は)「なぜ他の企業はソーシャルビジネスをやらないのか」と考えました。この問題の根源にあるのは、「資本主義のシステム」です。この理論では「全ての人間は、より多くの利益を得ることができればよりハッピーになる」と言われています。そのように人間を理解することはあまりにも狭いと考えました。本当の人間は、利己的ではありますが「無私」の部分もあります。資本主義の理論では、無私をビジネスの世界には認めません。ビジネスはビジネスです。ビジネスは利益を最大限にしなければいけません。しかし、私たちは自分の利益には関心のない「無私のビジネス」をやってきました。資本主義の中で無私という考え方を導入するとシステムもまた変わります。いろいろなスペシャルビジネスを作ることができます。

写真 基調講演するユヌス氏

写真 基調講演するユヌス氏
写真 基調講演するユヌス氏

どの人間も創造力を持っている

どの人間もたくさんの「クリエイティビティ(創造力)」を持っています。豊かな国にいる人、貧しい村にいる人、優秀な学校に通っている人、最も貧しい人、全ての人が持っています。しかし、それを解放するチャンスがありません。それによりさまざまな問題が起きるのです。クリエイティビティを全部合わせて、その力を問題解決に向けることができれば、こういった問題も存在していないでしょう。私たちはこの力を使って問題を解決し、そしてお金を生むのです。そこに「技術」が入ってきます。では、技術とは何なのでしょうか、誰のために機能すべきなのでしょうか。

さまざまな技術があります。例えば携帯電話。どの人も楽しみながら、遊びながら、読んだり書いたりすることを学ぶことができます。そしてメッセージを互いに送り合うことができます。最初は絵から、今度は少し言葉を使って、そして何かを追加して、とてもすばらしいと思います。とてもワクワクすると思います。しかし、なぜ私たちはそれをソーシャルビジネスでやらないのでしょうか。私たちはソーシャルビジネスを使ってコミュニケーションができない人を助けることができるのです。

(世の中では)別のことが起きてきます。お金を中心とした世界がおそらく苦難の道に向かっているということを私はたいへん心配しています。つまり「富の集中」が起きているのです。今日、世界のごく一部の人の富が世界の貧困層40億人を合わせた富と等しいのです。明日はどうなるのでしょう。来年2018年にはどうなるのでしょう。たった1人が40億人の富よりも多く持つようになるかもしれません。私たちはどんな技術を開発してきたのでしょうか。世界中の富がごく一部の人の手に渡りました。これは時限爆弾のようなもので、世界的にも政治的にもいつでも爆発することが可能です。にもかかわらず私たちはそのことにあまり注意を払わないで、(現実は)そのようなものだと思っています。しかしそうではありません。この問題は現在のシステムの中にあります。ですからそのシステムを直す必要があります。私たちがソーシャルビジネスをやれば、富は一つのところに集中しないでリサイクルされます。そして富の集中はなくなります。

「自分の人生の生きがい」をもっと教えて

そこで思い付いたのがグラミン銀行です。(バングラデシュには)20歳、25歳、30歳の若い人たちがたくさんいます。でも仕事がないのです。バングラデシュは雇用を十分創出できません。「学校に行って教育を受けたのに仕事がないってどういうこと」と(若い人が)私に不平を言ってきます。(不平を言う)数百万人の人がいます。そのような人たちに私たちは対応しなければいけません。私は「自分について仕事を探す人ではなく、仕事を作る人だ、という風に考えたらどうか」と言いました。(すると)「学校ではどのように起業するかを教えてくれなかった」「どこから始めていいか分からない」と言います。(そこで私は言います。)「私たちが洞穴に住んでいた頃、電話をして『何か仕事ありますか』とは聞きませんでしたね」。私たちは自分で出かけて行って自分のやるべき仕事をしながら生き延びてきたのです。起業家精神というのは私たちの遺伝子に入っているのです。私は今やソーシャルビジネスの財団を作り、若い人たちに「ビジネスのアイデアを持ってきなさい」「パートナーになりましょう」「融資をしましょう」と言っています。そして「あなたが成功したらお金を返してください」それで終わりです。今ではビジネスのアイデアを持って何千という若者たちが毎月押しかけるようになってきています。「失業の問題」は雇用について人間が作った概念なのです。

もう一つ(現在世の中では)別のことが起きてきました。「人工知能(AI)」という技術からの新しい波です。このAIに「仕事が取って代わる」という問題です。バングラデシュは繊維業が盛んです。このAIにより私たちは仕事を失うかもしれません。では、人間はどこに行くのでしょうか。AIは全ての人たちを全員雇用の世界に連れていってくれるでしょうか。機械が私たちのために働くのでしょうか。人間は何のために生きる必要があるのでしょうか。最終的には政府がお金を与え福祉で生きていく生活になるのでしょうか。

それは人間の命運ではないと思います。人間の命運というのは、もっと大きなものです。そこに座って政府のお金で細々と生き続けるわけではありません。クリエイティブな力があってこそ人間です。「人間が世界を変えた」。そういうのが人間なわけで、生産性が必要です。技術はどこに来たのか、そしてその技術を持ってどこに行きたいのか。私たち人類の将来をどこに見るのか。全てのビジネス、全ての技術がやはりこうした設計をしなければいけませんが、今はそれがないのです。教育システムでは「自分の人生の生きがいはどこにあるのか」ということを教えていない。これが基本的な問題です。

「3つのゼロ」目指して-世界の一部が変われば全てが変わる

私は3つのゼロということで将来を決めたいと思います。貧困ゼロ、失業ゼロ、炭素排出量ゼロです。私が作ろうとしている(技術は)、「貧困を減らす」「人々が失業で苦しまなくていい世界」「自立できる世界」「地球を守る世界」などたくさんあります。

小さなところから全てが始まります。一つの村でプロトコル(手順)を作り、(それに従って)プロトタイプ(試作品)を作ります。そこでソーシャルビジネスをやってみて、自分で自立できるような村にするのです。村には貧しい人は1人もいません。その村で1つのプロトタイプができたときには、「どうやってやるのか再現したい」と多くの人たちが来るようになります。小さなことから、種から始めたらいいわけです。種を見つけたら、プランテーションを作ってあげましょう。世界中に広がっていきます。医療から始めてもいいでしょう。「ほとんどコストがかからずに1人1人が医療を受けられるようになること」、そのことも技術を使う目的になるでしょう。しかし、そういうことに技術を使っていない。(今ある技術を)全ての人たちが(医療を)受けられるような技術にできるのです。「この技術は絶対にできる」と思えばその目的にあった(技術を作る)設計にすればいいのです。まず意思決定が必要です。水(の問題)はどうでしょうか。全ての人たちがこの市場で安全な飲み水が飲める技術を見つけましょう。そう設計し、種を植えれば、絶対にできます。どんどん進んで行けるのです。

世界の一部でも変われば全てが変わっていきます。世界の全ての富を手にしても世界は変わりません。政府も、メディアも、ビジネスも同じです。あなた方が何を言おうと、「民主主義のこと」「人権のこと」「人間として重要なこと」もやはり「変えていく力」が必要です。非常に危機的なところに私たちは差しかかっていると思います。ありがとうございました。

(科学コミュニケーションセンター 早野富美)

ムハマド・ユヌス 氏

ムハマド・ユヌス(Muhammad Yunus)氏プロフィール
1940年、バングラデシュ第二の都市チッタゴンで生まれる。1957年、同国のダッカ大学を卒業。1969年、アメリカ合衆国のヴァンダービルト大学で経済学の博士号を取得。1974年、バングラデシュで起きた飢饉をきっかけに貧困と闘うようになった。1983年、グラミン銀行を創設。以後、グラミン銀行の最高経営責任者としてマイクロクレジット・プログラムを国内外で展開する。2006年、グラミン銀行と共同でノーベル平和賞を受賞。

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