レポート

研究開発戦略ローンチアウトー第11回「「環境の世紀」に生きる」

2010.04.28

鈴木 至 氏 / 科学技術振興機構 研究開発戦略センター フェロー

鈴木 至 氏(科学技術振興機構 研究開発戦略センター フェロー)

 科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター(CRDS)では、今後わが国が取り組むべき重要な研究開発領域・課題、研究開発システムなどについて調査・分析を行い、さまざまな分野の研究開発戦略を提案してきました。筆者は、2009年12月中旬から現職に就き、環境・エネルギー分野における研究開発動向の調査・分析に携わっています。ここでは自身の活動を通して得た情報や考察を素材にして、広範で多岐にわたる地球環境・エネルギー問題のある一面について、身近な話題を交えながら述べてみたいと思います。

環境の世紀

 「グリーン・ニューディール」、「低炭素社会」、「気候変動」、「再生可能エネルギー」、「持続可能性」、「温室効果ガス」、「二酸化炭素(CO2)排出削減」、「生物多様性」…。流行語大賞を総なめにするかのごとく、世の中には環境に関するさまざまなキーワードがあふれています。21世紀は『環境の世紀』であるといわれることもうなずけます。20世紀には、科学技術の急速な発展によって人間の消費意欲も増幅し、「大量生産・大量消費・大量廃棄」型の経済社会システムや生活様式が定着しました。しかし、便利な生活や物質的な豊かさを得たことと引き換えに、さまざまな地球環境問題が顕在化しました。環境の世紀で生きるわれわれ一人一人は、地球環境問題に興味・関心を持ち、また個々人が環境問題に関して実践活動をしていくことが求められます。

 鳩山首相は、昨年9月に開催された国連気候変動サミットにおいて「CO2などの温室効果ガスの排出量を、2020年までに1990年比で25%削減することを目指す」という非常に高い目標を表明しました。日本は、人類の生存を脅かす地球温暖化という問題に対して、以前からさまざまな対策に取り組んでおり、優れた環境対策技術や省エネルギー技術を培ってきました。なかでもCO2排出抑制技術では世界を大きくリードしているといわれます。それにも増して、これまで以上に技術力やノウハウに磨きをかけ、25% 削減目標に向けて強力な取り組みを推進することが必要とされています。

省エネマインド

 日本は、かつて二度のオイルショックを経験したこともあり、「省エネ」(特に節電)マインドが定着化していると思います。例えば、家電製品の主電源をこまめに切ることが習慣化している人も多いのではないでしょうか。とあるオフィスでは、省エネの取り組みとして「昼休み中は使用しないパソコンの電源を切っておく」ことが、本当に効果があるのか、スリープ状態にしておくのとどちらがいいのか、真剣に悩んだと聞きます。

 先日、通勤電車で新社会人らしき二人の会話が耳に入りました。自宅のパソコンを終日起動状態にしていたことについて、「環境には悪いんだけど」と恐縮気味に語っていました。しかし、もう一人は「1人が10の努力をしたって効果ないよ。世の中には100も200も使っている人がたくさんいるんだから」と返していました。確かに、個人レベルの小さな努力で何ができる?という気持ちは分からなくもありません。しかし、細かな積み重ねこそが省エネの始まりということを、われわれ自身を含め、あらためて認識することが必要です。

 一定の生活水準を維持しつつCO2排出を抑制するには、省エネが極めて重要であるといわれていますが、節約による削減効果は、数%−10%程度といわれています。大きな削減効果を期待するには、節約だけではなく、効率化することが求められます。それもエネルギー効率を格段に高めるような効率化が求められます。そのためには、既存技術の延長・改良だけでは限界があるため、革新的な技術ブレークスルーを生み出すことによって大きく飛躍することが必要です。

科学技術の貢献

 2009年末、政府は『新成長戦略(基本方針)』を発表し、地球規模の課題を解決する「課題解決型国家」を目指す方向を示しました。今後、持続的に成長するための戦略の2つの柱として、世界最高水準の低炭素社会の実現を目指した「グリーン・イノベーション」と、少子・高齢化に取り組むことによって健康大国の実現を目指した「ライフ・イノベーション」を掲げました。また、成長を支えるプラットフォーム(土台)として、科学技術が極めて重要な位置付けであることを示しました。科学技術は、さまざまな課題を解決し、未来を切り開く鍵として社会から大きな期待を寄せられています。

 CRDSでは、科学技術に対する社会の期待を「豊かな持続性社会の実現」ととらえて2010年度の活動方針に掲げました。豊かな持続性社会を実現するための要素の一つには「持続可能なエネルギーシステム」が含まれており、環境・エネルギー分野でのメーンテーマとして調査・分析に取り組んでいます。社会の期待に応えるため、科学技術は今、何をなすべきなのか、そのための研究開発戦略をいかに立案し提言するのか、CRDSとしての役目を果たすべく検討を続けたいと考えています。

おわりに

 江戸時代の生活様式は、資源を循環的に利用することをはじめとして、環境に優しい生活様式であったといわれています。しかし、江戸時代に学ぶことはあっても、今さら当時の生活様式に戻ることはできません。人類は、より快適に安心して豊かに生きるために知恵を絞り、技術を磨き、地球上の隅々にまで繁栄してきました。空を飛ぶ夢をかなえ、深海への挑戦を実現し、宇宙空間に留まることすら可能にしました。現在直面しているこの地球規模の難題についても、さらに知恵を絞り、結集することによって必ずや解決してみせるはずです。

この記事は、CRDSフェローとの日々の交流や、関係する有識者の講話などを通して得た筆者の私感であって、CRDS内での議論(結果)や思考の方向性を直接的に反映するものではありません。

参考文献)

  • JST研究開発戦略センター「戦略提言 温室効果ガス排出削減に向けた研究開発の推進について-産学官のネットワーク形成による科学技術イノベーションの実現-」PDF(CRDS- FY2009-SP-04)平成21年11月
  • JST研究開発戦略センター「戦略提言 二酸化炭素排出抑制技術によって科学技術立国を実現するための2つの戦略的機関設置の提言」(CRDS-FY2008-SP-11)
  • 「新成長戦略(基本方針)」PDF(平成21年12月30日 閣議決定)
  • チャレンジ25キャンペーン

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