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骨タンパク質の経口摂取で代謝を改善

2014.10.10

 骨の細胞が作るオステオカルシンを長期間経口投与すると、全身の代謝が活性化することを、九州大学大学院歯学研究院の平田雅人(ひらた まさと)主幹教授、溝上顕子(みぞかみ あきこ)助教と大学院生の安武雄(やすたけ ゆう)さんらがマウスの実験で突き止めた。肥満やメタボリックシンドロームの予防や治療の新しい戦略に使えそうだ。九州歯科大学の竹内弘(たけうち ひろし)教授らとの共同研究で、9月28日に国際科学誌 BONEに発表した。

 オステオカルシンは、骨を形成する骨芽細胞が分泌するタンパク質で、骨の中に沈着して 0.4%の割合で存在するが、血液中にも流れ出て、全身のエネルギー代謝を活性化するホルモン機能が最近、注目されている。研究グループは昨年、オステオカルシンが消化管ホルモンのGLP1を介して、インスリン分泌を促進することを初めて明らかにした。今回、オステオカルシンを長期間飲ませ続ける場合に、全身のエネルギー代謝にどのような影響を及ぼすか、を調べた。

 雌のマウスに、離乳直後から週に3回、3カ月にわたってオステオカルシンを飲ませたところ、マウスの空腹時の血糖値が低下し、糖尿病の指標である耐糖能が改善した。オステオカルシンを飲み続けたマウスの膵臓では、インスリンを合成・分泌するランゲルハンス島のβ細胞が増殖し、ランゲルハンス島が増大していることがわかった。それに伴ってインスリンの分泌量も増えていた。この実験に使ったオステオカルシンは遺伝子組み換えで大腸菌に作らせて精製した。

 高脂肪高ショ糖食で飼育したメタボリックシンドロームのモデル動物のマウスでも、オステオカルシンの経口投与で糖代謝が改善する結果が得られた。GLP1受容体の拮抗薬を事前に投与して その作用を阻害した後に同様の実験を行うと、これらの効果は見られなかった。このため、オステオカルシンによる糖代謝改善効果の大部分は、小腸から分泌されるGLP1を介したものと考えられる。

 マウスに経口投与したオステオカルシンの動態を調べたところ、わずかな量が消化液で分解されずに小腸まで達し、少なくとも 24時間とどまっていた。オステオカルシンを腹腔内に注射して直接投与すると、一時的に血中濃度が非常に高くなるが、1時間後には元に戻った。しかし、経口投与なら、 24時間は血中濃度の高い状態が続いた。オステオカルシンの血中濃度が上昇するのに伴って、血中GLP1濃度も上がり、全身の糖代謝が改善していた。

 研究グループの平田雅人主幹教授は「経口投与は、医療従事者の手を必要とせず、簡単で安全な方法だ。その経口投与でオステオカルシンの血中濃度を上げることができるので、代謝改善などメタボリックシンドロームの予防薬として使える可能性がある。オステオカルシンの吸収を促進するような物質が見つかれば、それとの併用投与も有効だろう。研究を重ねて、臨床応用の道を探りたい」と話している。

写真. 雌マウスの膵臓ランゲルハンス島(茶色に染色された部分)。オステオカルシン投与群(右)のランゲルハンス島は面積が増大している。
図. 経口投与したオステオカルシンの消化管における分布。投与から24時間たっても小腸内にとどまっている。
グラフ. オステオカルシンを投与した際の血中濃度の変化。左が腹腔内投与、右が経口投与。
(いずれも提供:九州大学)

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