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次代の科学研究を担う高校生が、研究発表を通じて交流「グローバルサイエンスキャンパス 令和元年度全国受講生研究発表会」

JST 理数学習推進部

掲載日:2019年12月19日

国際的に活躍する次世代の科学者を育てる「グローバルサイエンスキャンパス(GSC)」の令和元年度全国受講生研究発表会が、科学技術振興機構(JST)が主催する「サイエンアゴラ2019」の関連企画として、11月16日、17日に日本科学未来館で開催された。全国から参加した約50人の高校生が互いの研究成果を共有し、親睦を深めた。

15大学から選ばれた50人がハイレベルな研究成果を披露

GSCは、世界をリードする科学技術人材の育成を目指し、JST理数学習推進部と各大学の連携で平成26年度に始まった。全国15の大学が高校生対象の科学教育プログラムを実施しており、約750人の受講生が大学教員らのサポートの下で専門性の高い学習と研究活動に取り組んでいる。今年で6回目となる発表会では、各大学から選ばれた受講生50名が39件のポスター発表をし、そのうち10件が2日目の口頭発表に進んだ。

最終審査の結果、神戸大学(共同機関:兵庫県立大学、関西学院大学、甲南大学)GSCプログラム受講生の三井愛理さん(啓明学院高等学校3年)による、「プラナリアの体長の測定方法の確立」が文部科学大臣賞を受賞した。

プラナリアは、淡水に住む扁平なヒルのような姿をした生物で、切っても切っても再生する生態で知られている。この高い再生能力に関しては多くの先行研究があるが、これはプラナリアの研究を「定量化」することを目的としている。

アメリカの遺伝学者トーマス・ハント・モーガンが1904年発表した論文によると、プラナリアの頭部を“非常に短く”切断すると、本来は尾が再生すべき場所に頭が再生する「極性転換」が生じる。モーガンのその“非常に短く”を検証するためには定量的な評価をする必要がある。

そこで着目したのがプラナリアの体長測定の方法だ。プラナリアは伸縮性に富み、状態によって長さが変化するために、体長を安定的に測る方法は知られていない。三井さんは、「これまで『定性的』に行われてきた研究に『定量性』をもたらすためには、体長測定法の確立が不可欠」と考え、本研究に取り組んだという。

「プラナリアの体長の測定方法の確立」の発表をする三井さん
「プラナリアの体長の測定方法の確立」の発表をする三井さん

プラナリアに振動を与えて体長を安定させ、冷却して固めるといった試行錯誤を経て、円形シャーレの側面をはっている様子をビデオ撮影。体長を独特の方法で算出。5秒以上はっている映像から、その時間の4分の1、2分の1、4分の3の3時点で体長を測り、複数回の平均を求めた。

異なる個体で試行した結果、この方法を使えばプラナリアの体長を安定して計測できることが分かった。画像の高解像度化により、8パーセント程度の体長差で個体の有意差を出せるという。さらに、個体ごとに異なるアメリカナミウズムシの体表の模様を画像比較することで、切断位置の正確な把握にも成功。現在はこの手法を用いて、モーガン実験の追試を行っている。

三井さんは発表のまとめで、「この研究成果により、プラナリアの再生メカニズムの定量的な研究が可能になる。各遺伝子の発現量と正確な位置を結びつけることで、モーガンらの研究を分子生物化学的な観点から評価できる。将来的には、例えばiPS細胞を使った再生医療の発展などにも貢献できるのではないか」と述べた。

山中伸弥教授に憧れて医学に興味を持った三井さんは、高校2年時から神戸大学のGSCプログラムに参加。同年代の高校生との研究交流やアメリカの大学での発表なども経験し、「さまざまなことを幅広く学ぶことが研究に役立つことを知るとともに、自分が生物学的なメカニズムの探求に興味を持っていると気づき、生命科学系の進路を目指すことにした」という。今回の発表会については、「互いの研究成果を話してアドバイスを交わすのは、学校ではできない楽しい経験。本当に充実した2日間だった」と振り返った。

GSCを通じて国際研究チームの一員として活動する高校生も

科学技術振興機構理事長賞を受賞したのは、慶應義塾大学GSCプログラム受講生の細野朝子さん(豊島岡女子学園高等学校2年)の「金星大気衛星間電波掩蔽(えんぺい)観測の立案に向けたデータ同化による研究」だ。

金星の固体組成は地球に似ているが、大気部分は大きく異なる。ほとんどが二酸化炭素(CO2)で構成され、高度45~70キロメートル付近が厚い雲で覆われているため、大気下層の状態は分かっていない。

金星の極域上空の大気では、暖かい領域の周囲を気温が低い領域が取り囲むという「コールドカラー(冷たい襟)」など特有の大気現象が知られており、そのメカニズムの研究が進められている。

金星の大気現象を明らかにする高精度な観測手法として有望視されているのが、探査機と地上局の通信に用いる電波を観測に利用する「衛星間電波掩蔽観測」を使った方法だ。宇宙航空研究開発機構(JAXA)が運用中の金星探査機「あかつき」には、周波数の安定した電波を送信できる高性能な発信器が搭載されている。送信する電波が金星大気の影響で屈折すると受信周波数が変化するので、この周波数の変化を分析し、その屈折率の高度分布から気温の高度分布を観測している。

細野さんがGSCを通じて参加する国際研究グループのメンバーは、金星軌道上での複数探査機による衛星間電波掩蔽観測をアメリカ航空宇宙局(NASA)に提案中で、この研究の目的はその提案をサポートすることだという。同グループは、独自に開発した金星大気循環モデルなどを用いて、観測を想定したシミュレーション実験を行い、十分な効果を得るためには、何機の探査機を飛ばして、どの程度の頻度で観測すればよいかを検討した。

観測地点や頻度を変えた疑似観測を行い、コールドカラーの再現精度を見ることで観測の有用性を比較した結果、コールドカラーは2~3地点、4~6時間ごとに観測した場合に再現されることや、温度観測が風速場に影響を与えること、モデル間のバイアス補正の有効性などが分かったという。

「金星大気衛星間電波掩蔽観測の立案に向けたデータ同化による研究」の発表スライド
「金星大気衛星間電波掩蔽観測の立案に向けたデータ同化による研究」の発表スライド

実際の観測では、3機の探査機があれば3地点を2~4時間間隔で観測することが可能で、探査ミッションとして実現性がある。細野さんは、「衛星間電波掩蔽観測は、少なくとも極域の大気現象の再現に有効であることが分かった」とし、今後は観測地点が移動する実軌道での運用を考慮した観測システムのシミュレーション実験を準備するとともに、「コールドカラー以外の現象でも衛星間電波掩蔽観測の有用性を検証していきたい」とまとめた。

今回の受賞については、「海外の先生方も含む国際的なチームに参加できるのは素晴らしい経験で、一人の力でもらった賞ではない。共同研究者の皆さんや支えてくれた先生方、身近な人たちにも感謝したい」と喜びを語っている。

表彰ではこの他に、「沖縄県における土壌からの病原性レプトスピラの分離」(邱一泓さん/琉球大学受講生、沖縄県立開邦高等学校2年)と、「超高温耐熱セラミックスとタングステンの固相拡散による接合」(田中光さん/九州大学受講生、熊本県立玉名高等学校3年)に審査委員長特別賞と、口頭発表を行った6件に優秀賞が贈られた。

科学研究に取り組む高校生同士のネットワークづくりの場に

表彰式であいさつした文部科学省科学技術・学術政策局長の菱山豊氏は、「こうした機会を通じて、同世代のトップレベルの仲間とネットワークをつくることが、今後さまざまな分野で活躍するにあたって役立つこと。GSCで学んだ皆さんが、地球規模の課題を解決する力を持つ科学技術人材として、世界で活躍することを期待している」と受講生らを激励した。

グローバルサイエンスキャンパス審査委員会の隅田学副委員長は講評のなかで、「研究内容はもちろん、口頭発表での英語や自己表現のレベルも高かった」と受講生の取り組みを評価した。

三井さんの研究については、「モーガン先生から始まった100年来の問いに挑むもので、生物の体長測定という課題に、一から実験を設計して迫っている。科学の原点に帰るような、すがすがしい気持ちになる研究」と称賛した。また細野さんの研究は、「国際的な研究チームに参加し、自分の役割を見つけて成果を出している点は、将来性も含めて高く評価できる」とした他、実施機関の慶應大学が、海外の大学や研究機関とも実質的に連携し事業を進めている点も「他の実施機関のお手本になる」と述べた。

最後に主催者を代表して登壇したJSTの佐伯浩治理事は、「GSCでの学びや経験、人とのつながりを生かして、ぜひグローバルに活躍する研究者の道を進んでほしい。そのためにも、自ら関心を持ったことを丁寧に追究し続けることが大切。一方で、大学で幅広い教養を身につけることは将来の研究においても重要になる」とアドバイスした。

受賞者たちを囲んだ集合写真
受賞者たちを囲んだ集合写真

今年度の受賞者からは、「昨年の発表会で成果を披露する先輩たちの姿を見て、自分もこの場に立ちたいという思いで研究に取り組んできた」という声が多く聞かれた。今回の発表がGSCの後輩受講生たちにも刺激を与え、今後の研究活動のさらなる充実につながることを期待したい。

(JST 理数学習推進部 ラオ ちぐさ)

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