レポート

「次のアインシュタインはアフリカから」—フォーラム「NEF」第2回会合開催

2018.05.01

新井 辰夫 / 国際部参事役

 「ネクスト・アインシュタイン・フォーラム(NEF)」の第2回グローバル会合が3月26日から28日までの3日間、アフリカのルワンダで開催された。NEFは、その名前の通り「次のアインシュタインをアフリカから」を目指して2013年に創設された。アフリカをグローバルな科学技術のハブ(拠点)とすることを目的にアフリカと世界の科学・社会・政策をつなぐプラットフォームとして位置付けられている。

 会合にはアフリカ諸国の科学者と関連機関やアフリカ域外の研究支援機関などが参加し、アフリカで科学技術の振興を図るための課題などを議論する。今回は2回目で、日本から、日立製作所・e-ASIA研究主監の武田晴夫氏と科学技術振興機構(JST)国際部参事役の新井辰夫(本レポート筆者)らが出席、登壇した。日本ではあまり知られていないこのNEFについて紹介しながら第2回グローバル会合の模様をレポートする。

写真1 NEF全体セッションの様子(撮影・国際部 市岡利康)
写真1 NEF全体セッションの様子(撮影・国際部 市岡利康)

91ヶ国から約1600名が参加しアフリカ最大の科学イベントに

 NEFは、アフリカ数理科学研究所(AIMS)が主催し、ドイツのロバート・ボッシュ財団などが協力している。活動の柱は、隔年開催のグローバル会合で、アフリカの各国からNEF大使として指名された若い科学者たちも集まる。今回のNEFグローバル会合には、91ヶ国から約1600名が参加した。今回のホスト国はルワンダ。会合にはポール・カガメ大統領のほか、セネガルのマッキー・サル大統領をはじめ各国の政府要人も出席し、初回に続きアフリカ最大の科学技術イベントとなった。次回は2年後の2020年にケニアで開催されることも発表された。

 NEFを主催するAIMSは、アフリカ大陸全体の科学・教育・経済面での自立に向けて優秀な学生をイノベーターとして育てている機関で本部はルワンダにある。2003年以降、南アフリカ共和国のケープタウンをはじめとして、セネガル、ガーナ、カメルーン、タンザニア、ルワンダ各国内にセンターが設立された。2023年までにアフリカ全体に15のセンターを設立することを目指している。

「カエルの跳躍」

 「アフリカで科学技術? もっと先に取り組む課題があるのでは?」とういう反応が多いかもしれない。しかしNEFは、科学技術イノベーション(STI)を用いてさまざまな課題を解決して持続的発展を遂げることを大きな目標に掲げている。「LEAPFROG」(「カエルの跳躍」)という表現がある。例えば、アフリカでは固定電話が普及する段階を経ず、携帯電話が幅広く使われるようになった。これは、例えば、ケニアにおける「地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム」(SATREPS)の共同研究に於いて、感染症の発症状況を携帯電話等で中央政府へ伝達し情報を集約することでアウトブレイクを早期に察知・警戒するシステムの開発の背景となった。アフリカには、先進国がたどった段階を超えて、科学技術の力を使ってカエルの跳躍で発展を目指す下地がある。

 ここで、アフリカのSTIの実態を少し紹介する。アフリカでも、科学技術イノベーションを推進する戦略や制度の整備が進んでいる。アフリカ連合(AU)は2015年に、アフリカが目指す道を「アジェンダ2063」として採択した。主要目標の一つが「包摂的成長と持続可能な開発」で、そのための具体的目標として「科学技術イノベーションに支えられた十分教育された市民」を掲げている。その上で加速すべき取り組みとして、STIの促進を明示している。これを受けて、アフリカのための科学技術イノベーション戦略2024(STISA-2024)が策定され、具体的なSTI戦略が示されている。

 広範なアフリカSTI推進組織も立ち上がりつつある。AU内に科学技術部が設けられた。NEF以外に、アフリカ科学アカデミー、AIMSのほか、サハラ砂漠以南の助成機関が協力する「科学研究費助成機関イニシアティブ (SGCI)」と呼ばれる活動もある。まだ発展途上ではあるが、目標達成を目指す意気込みや勢いがある。

 今回のルワンダ訪問は30年ぶりだった。ルワンダは「アフリカの軽井沢」だと思っている。高原で丘の国、勤勉な農業国だ。虐殺(1994年)もあったが、現在はその惨禍を何とか克服してICTを推進して発展している。80年代にはなかった高層ビルも増えた。ICTだけでなく、アフリカ全体でのSTI推進や知識産業のハブを目指して体制づくりを進めている。その一例として、キガリ・イノベーション・シティ整備、SDGsアフリカ・センターの設置などが挙げられる。

科学技術イノベーションを進める強い意気込み−第2回グローバル会合

 第2回会合では、アフリカの人々が熱っぽく語り、アフリカ出身の科学者により科学技術イノベーションを進めようとの意気込みを感じた。アフリカ域外の関係機関と積極的に協働したいという発言が多く聞かれた。

 ルワンダのカガメ大統領は、第2回グローバル会合をホストして、次のような趣旨を述べた。

 「アフリカの優秀な学生が自立して思考することが極めて重要だ。アフリカはこれまでの産業革命から取り残されてきた。もはや、科学技術の進歩から除外されることは許されない。極貧のまま終わることがあってはならない。われわれの目標は、持続可能な繁栄を皆で共有することだ。科学とイノベーションが鍵となる。アフリカは若く成長しており、それがわれわれの力だ。アフリカの将来の繁栄は、若者の頭脳に今どれだけ投資するかにかかっている。ルワンダは、喜んでNEFフォーラムに協力する。それは、世界的な協力と汎アフリカの精神によって、知識を土台としたアフリカを創ることに貢献する」。

 セネガルのサル大統領も参加した。セネガルは第1回NEFグローバル会合のホスト国で、STIを重要視している。同大統領もまた、科学技術イノベーションによるアフリカの課題解決、そのための人材育成の重要性などを強調した。

写真2 セッションに登壇したサル・セネガル大統領(左)とカガメ・ルワンダ大統領(右)(撮影・国際部 柴田敬子)
写真2 セッションに登壇したサル・セネガル大統領(左)とカガメ・ルワンダ大統領(右)(撮影・国際部 柴田敬子)

 私(新井)は、独バーデン・ヴュルテンベルク州のテレジア・バウアー科学研究文化大臣、アフリカ科学アカデミーのネルソン・トート会長、アメリカ科学振興協会(AAAS)のラッシュ・D・ホルトCEO、ドイツ研究振興協会(DFG)のペーター・シュトロシュナイダー会長と共に、パネル討論「変わりゆく科学の世界地図」に登壇した。科学技術の分野では世界中で新しいプレーヤーが台頭する一方世界的な課題も山積みだ。こうした課題解決に向けて世界の科学者がいかに協調していくかというテーマで討論した。

 そこでは、科学技術基本計画や「Society5.0」などの日本の科学技術政策を紹介した上で、世界が直面する課題と目標(国連の持続可能な開発目標《SDGs》、気候変動防止の国際枠組み「パリ協定」、「仙台防災枠組」など)を解決するためにSTIが重要であるという認識が世界で高まっている状況を強調した。続いて、日本でもSDGsに積極的に取り組む中で(政府のSDGs推進本部設置など)、STIの果たすべき役割も高まっていることについて説明した。このほか、「アフリカ開発会議」(TICAD)、「地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム」(SATREPS)など、日本のアフリカ協力についても言及した。

 このほか、日本からの参加者として以下の3点を強調した。

 「世界での協働のために重要な点としては(1)SDGs、パリ協定、仙台防災枠組などで明らかにしているように世界が課題と目標に共通認識を持つこと(2)研究分野/ステークホルダー/国境のそれぞれのボーダーを超えてSTIを推進しやすくするために協働するシステムを構築してエンカレッジすること(3)多くの人が参画するために世界各地でSTI人材の育成を強化すること」。

写真3 パネル討論「変わりゆく科学の世界地図」(撮影・市岡利康)
写真3 パネル討論「変わりゆく科学の世界地図」(撮影・市岡利康)
写真4 パネル討論で発言する筆者(新井辰夫)(中央)(撮影・柴田敬子)
写真4 パネル討論で発言する筆者(新井辰夫)(中央)(撮影・柴田敬子)

プレイベントではアフリカの「イノベーションエコシステム」形成について議論

 NEFグローバル会合のプレイベントとして、「Science Africa Workshop on Pan-African Initiatives for Research Capacity Building(研究能力向上のための汎アフリカイニシアティブに関する”サイエンスアフリカ”ワークショップ)」も開催された。「ドイツ研究振興協会」(DFG)、「科学研究費助成機関イニシアティブ (SGCI)」、「Rwanda’s National Council for Science and Technology ルワンダ科学技術評議会(NCST)」の3機関主催による招待制の会議であった。SGCIは南ア、英国、カナダの政府機関もしくは政府所管組織により運営され、現在アフリカ15カ国がパートナー国として参加している。このプレイベントには欧州やアフリカ諸国、北米の助成機関や大学関係者ら約70人が参加した。アジアからはJSTが参加し、アフリカでの研究や研究機関の在り方やアフリカ全体の「イノベーションエコシステム」形成について熱心な議論が展開された。

写真5 プレイベント「研究能力向上のための汎アフリカイニシアティブに関する”サイエンスアフリカ”ワークショップの案内ボード」(撮影・市岡利康)
写真5 プレイベント「研究能力向上のための汎アフリカイニシアティブに関する”サイエンスアフリカ”ワークショップの案内ボード」(撮影・市岡利康)

「日本の関与」への期待は高い=特に人材育成と科学技術

 今回NEFの第2回グローバル会合に出席し感じた点を以下に記したい。

 日本の対アフリカ協力は、政府開発援助(ODA)を中心に豊富な実績がある。実施機関の国際協力機構(JICA)はアフリカの誰でも知っている。1993年からは、アフリカ開発会議(TICAD)を開催して、日本とアフリカ諸国間でアフリカの発展のために協議を続けてきた。他の国に先駆けて日本がフォーラムを立ち上げ、他国や国際的なステークホルダーも巻き込んで、サミットを開催している。(直近は2016年ケニアで第6回TICAD、次回は2019年横浜にて予定)

 アフリカでは日本の技術力に対する評価と期待が高い。日本には、科学技術のレベルの高さに加えて社会実装の強みがあり、アフリカの、STIで課題を解決したいという熱望に合致する。さらに、日本は人材育成の実績もあり、アフリカの人々の「STI人材を育てたい」という渇望にも応えることができる。アフリカでの制度立ち上げを支援することもあり得る。日本が期待に応えて協力できる分野は多い。

 現在、世界全体としてSDGsの達成に向けた取り組みが進められている。それにあたっては、STIの役割が重要視され、国連ではSTIフォーラム(Multi-stakeholder Forum on STI for SDGs)を毎年開催している。日本国内でも、社会全体でSDGs実現に向けSTIを積極的に活用する方策がとられている。

 アフリカもこの流れの例外ではない。アフリカの潜在力は極めて高い。天然資源は豊かで、「未来の大市場」(アフリカの人口は現在約12億、2050年には20億人を超える見込み)と期待され、最近では政治的安定を背景に海外からの直接投資や内需拡大を背景にアフリカ経済は成長している。サハラ砂漠より南の地域「サブサハラ」は「国内総生産」(GDP)、「国民総所得」(GNI)とも世界平均の約2倍の伸び率だ。「今、まさにアフリカとの科技協力を強化すべき秋(とき)」と言える。

 アフリカとのSTI協力としては、これまでに南アフリカとの2国間協力や、アフリカ17ヶ国・32課題のSATREPSをJSTと日本医療研究開発機構(AMED)、JICAの共同で実施しており、現在もケニア・ザンビアなどとの研究協力を推進している。今後は、多国間協力を含めて、アフリカ全体との科学技術協力を強化することが考えられる。日本は科学技術外交を推進している。岸輝雄東京大学名誉教授が外務大臣科学技術顧問として任命され、科学技術外交推進会議も2015年に立ち上げられた。アフリカについては、同顧問が提言「科学技術・イノベーションの力でアフリカを豊かに」(2016年)を作成し(1)人材育成を通じたアフリカの科学技術水準の向上、(2)研究開発の成果を社会全体に還元することを2本柱に各種施策を示している。2019年横浜での第7回アフリカ開発会議(TICAD VII)も含め、今後、アフリカをめぐるさまざまな展開が期待される。

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