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ノーベル化学賞に京大・北川氏ら3氏 気体を貯蔵できる金属有機構造体「MOF」を開発

2025.10.08

 スウェーデン王立科学アカデミーは8日、2025年のノーベル化学賞を京都大学高等研究院の北川進特別教授(74)ら3氏に授与すると発表した。受賞理由は「金属有機構造体(MOF)の開発」。MOFはさまざまな気体を貯蔵でき、環境や産業など幅広い分野への応用が期待されている。共同受賞するのはオーストラリア・メルボルン大学のリチャード・ロブソン教授(88)と米カリフォルニア大学のオマー・ヤギー教授(60)。

 6日に発表された大阪大学の坂口志文特任教授のノーベル生理学・医学賞に続く日本人の受賞で、化学賞では2019年の吉野彰氏以来9人目となる。

ノーベル化学賞が決まった(左から)北川氏、ロブソン氏、ヤギー氏(ニクラス・エルメヘード氏、ノーベル財団提供)

 MOFは金属イオンに有機分子が結合して分子レベルの無数の孔を持つ多孔性配位高分子の一つ。ロブソン氏は1989年、銅イオンなどを組み合わせて無数の空間をもつダイヤモンドのような規則正しく並んだ結晶ができることを発表した。空間がある分子構造によって化学物質の出し入れができる可能性があるが、当時はできた結晶はもろくて壊れやすかった。

 1992年から2003年にかけて、北川氏とヤギー氏はそれぞれに研究を進め、北川氏は1997年、コバルトやニッケル、亜鉛などのイオンを用いたMOFによって空間である孔の中に気体を大量に取り込めることを実証するなど、構造物に気体を出し入れできることを示した。

1998年に北川氏が提唱した、金属有機構造体(MOF)を柔軟にできるとしたイメージ図(ノーベル財団提供、一部改変)

 ヤギー氏は1995年、銅かコバルトが結合した網目構造の材料を発表。空間に物質が入ることで安定して壊れなくなることを示し、MOFと命名した。

 MOFにより、砂漠の空気から水を採取したり二酸化炭素(CO2)を捉えたりするなど、気体などの状態で化学物質を持ち運びできるようになると期待できる。ノーベル化学賞委員長は「MOFは予期せぬ新しい機能をもったカスタムメイド材料を開発できるようになる」と評価している。

MOF材料のさまざまな形状。形によって異なる性質を持つ(ノーベル財団提供、一部改変)

 北川氏の成果は産学連携による実用化研究が進んでおり、すでに天然ガス吸着剤や次世代高圧ガス容器などの試作品が開発されている。工場から排出されるCO2を効率よく吸収分離する技術開発も各地で行われている。

MOFを用いて開発された天然ガス吸着剤(左)と次世代高圧ガス容器(JST A-STEP資料より引用)

 北川氏は8日夜、京都大学で会見し「新しいことをするチャレンジは科学者の醍醐味で、辛いこともいっぱいありましたが、新しい物を作っていくことで30年以上、楽しんできました。今般、かくもこんな大きな名誉を頂くことになり非常に感激し、何よりこの科学を一緒に進めてきた同僚、学生、海外を含めた博士研究員の皆さんに感謝申し上げたい」と喜びを語った。

京都大学で行われた会見で、受賞の喜びを語る北川氏(YouTube「京都大学 公式チャンネル」より)

 賞金計1100万スウェーデン・クローナ(約1億7500万円)は3氏で等分する。授賞式は12月10日にスウェーデンで開かれる。

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