スウェーデンの王立科学アカデミーは7日、2025年のノーベル物理学賞を、物質の極めて小さな単位「量子」の世界の性質を目に見える大きな規模の実験で示した米国の3氏に授与すると発表した。授賞理由は「電気回路における巨視的な量子力学的トンネル効果とエネルギー量子化の発見」。将来の量子コンピューターの開発などにもつながる業績が評価された。
受賞が決まったのは米カリフォルニア大学名誉教授のジョン・クラーク氏、エール大学名誉教授・カリフォルニア大学教授のミシェル・デボレ氏、カリフォルニア大学名誉教授のジョン・マルティニス氏。2021年の真鍋淑郎氏(米国籍)以来となる日本人の物理学賞受賞はならなかった。

物質を形作る原子や、その部品である電子や中性子、陽子、物質の最小単位の素粒子といった量子の世界は、「量子力学」の法則に従っている。量子力学では、量子が粒子と波の性質を併せ持つなどしており、ニュートン力学や電磁気学のような身の回りで感じられる物理法則とは大きく異なる。
われわれが壁に向けてボールを投げても、跳ね返って壁の向こう側に行くことはない。しかし波の性質を持つ量子の世界では、粒子が波のように振る舞い、壁を乗り越えるエネルギーを持たなくても壁の向こう側へとすり抜けられる。この不思議な性質を「トンネル効果」と呼ぶ。この効果は通常は、粒子の数が増えると見えなくなってしまう。

これに対し、3氏は1984~85年、超電導体で構成された電子回路を使い実験。回路に改良を重ねることで、電流を流したときに生じる現象を制御し解明することに成功。超電導体の中を移動する荷電粒子が、あたかも回路全体を満たす単一の粒子であるかのように振る舞うシステムを作り出した。3氏はこの“手のひらサイズ”の実験でもトンネル効果が起き、このシステムが量子力学の性質を持って動作することを実証した。
トンネル効果や量子の世界のエネルギーは従来、わずか数個の粒子からなる系で研究されてきたが、この回路を実装したチップは約1センチと大きかった。この実験は、量子力学的な効果を微視的スケールから巨視的スケールへと拡大した。3氏の成果に対し同アカデミーは「量子暗号、量子コンピューター、量子センサーといった次世代の量子技術の開発の機会を提供した」と評価した。

賞金計1100万スウェーデン・クローナ(約1億7500万円)が3氏に等分して贈られる。授賞式は12月10日にスウェーデンで開かれる。