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ノーベル生理学・医学賞に坂口阪大特任教授と米国の2氏 制御性T細胞の発見で

2025.10.06

 スウェーデンのカロリンスカ研究所は6日、2025年のノーベル生理学・医学賞を、制御性T細胞を発見した大阪大学免疫学フロンティア研究センターの坂口志文特任教授(74)と、米システム生物学研究所のメアリー・E・ブランコウ博士、米ソノマ・バイオセラピューティクス社のフレッド・ラムズデル博士の3氏に授与すると発表した。制御性T細胞による免疫の働きは、がん治療や自己免疫疾患の治療に役立つことが期待される。日本人の生理学・医学賞は2018年の本庶佑氏以来6人目。

今回免疫に関する成果で受賞が決まった坂口志文・阪大特任教授(右)と、メアリー・E・ブランコウ氏(左)、フレッド・ラムズデル氏(ニクラス・エルメヘード氏、ノーベル財団提供)
今回免疫に関する成果で受賞が決まった坂口志文・阪大特任教授(右)と、メアリー・E・ブランコウ氏(左)、フレッド・ラムズデル氏(ニクラス・エルメヘード氏、ノーベル財団提供)

 私たちの体は日々多くの微生物の侵入を免疫の働きによって阻止している。だが、免疫システムは何を攻撃し、何を守るべきかをどう判断しているのか分かっていなかった。坂口氏らが発見した制御性T細胞の働きは「免疫システムの警備員」として免疫を制御していた。

 ヒトの体には、微生物を検知して他の免疫細胞に警告する働きを持つ免疫細胞のT細胞が存在している。1980年代当時、免疫システムは胸腺の中枢性免疫寛容という仕組みで、自己抗原を異物として認識する有害な免疫細胞を排除すると考えられていた。しかし95年、坂口氏は胸腺を切除したマウスに他のマウスから培養したT細胞を注入したところ、自己免疫疾患を発症しないことを実験で明らかにし、従来考えられたシステム以外にも免疫システムがあることを発見した。

坂口氏が実施した実験(ノーベル財団提供の図版の図中文字を編集部が和訳)
坂口氏が実施した実験(ノーベル財団提供の図版の図中文字を編集部が和訳)

 一方、ブランコウ氏とラムズデル氏は2001年、特定の遺伝子の系統を受け継ぐマウスに自己免疫疾患が多いことを発見。全ゲノム解析で詳しく調べると、Foxp3という遺伝子に変異があることが分かった。この遺伝子変異は、ヒトにおいてもIPEX症候群という遺伝性症候群を発症していることが判明した。

 そして、坂口氏はこのFoxp3遺伝子が制御性T細胞の発達をコントロールしていることを発見。制御性T細胞は異物を排除した後は、暴走を防いで落ち着くという一連の流れも分かった。

 カロリンスカ研究所は「免疫系がどのように制御され、抑制されているかの基礎的な発見をし、がんや自己免疫疾患などの新しい治療法の開発を進めた」などと評価した。がん免疫療法や臓器移植における拒絶反応の治療法の確立につながるとされる。

 T細胞には免疫応答を起こすものと、免疫反応を抑えるものの2種類が存在する。免疫応答が強いと自己免疫疾患やアレルギーを起こし、免疫反応が抑えられるとがんになる。今回の発見まで両者を識別することは困難だった。このバランスが明らかになったことで、治療法に道が開けた。この成果を基にして、2016年には制御性T細胞の英名を使った「レグセル社」が設立され、坂口氏もメンバーの一員として創薬に取り組んできた。

免疫細胞は制御性T細胞のほか、ナイーブT細胞、エフェクターT細胞が存在する。これらのバランスが崩れると、腫瘍や自己免疫疾患、アレルギーを発症する(JSTプレスリリースから)
免疫細胞は制御性T細胞のほか、ナイーブT細胞、エフェクターT細胞が存在する。これらのバランスが崩れると、腫瘍や自己免疫疾患、アレルギーを発症する(JSTプレスリリースから)

 大阪大学吹田キャンパスで6日に開かれた会見で坂口氏は「大変光栄に思っています。学生諸君、共同研究者にお世話になりました。その人たちにも感謝しています。COVIDやワクチンなどが話題になったが、免疫反応をいかにして強くするか、と、異常な反応をいかに抑えるかの2つが重要。私はいかに負に制御するかを研究してきました。(今回の研究は)関節リウマチや1型糖尿病をいかに治療するか、いかに起きなくするかにつながります」と話した。

 会見中、石破茂首相から電話があり、「おめでとうございます。世界に誇る立派な研究。40年くらい研究されて今日につながったのですね」との祝福の言葉を受けた。

記者会見で受賞決定の喜びを語る坂口氏(YouTube「大阪大学 公式チャンネル」より)
記者会見で受賞決定の喜びを語る坂口氏(YouTube「大阪大学 公式チャンネル」より)

 賞金の1100万スウェーデン・クローナ(約1億7500万円)は3人で等分する。授賞式は12月10日にスウェーデンのストックホルムで開かれる。

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