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ノーベル生理学・医学賞にmRNAワクチン開発のカリコ、ワイスマン両氏

2023.10.02

 スウェーデンのカロリンスカ研究所は2日、2023年のノーベル生理学・医学賞を、mRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンを開発したドイツのバイオ企業ビオンテック顧問で米ペンシルベニア大学のカタリン・カリコ客員教授(68)とドリュー・ワイスマン教授(64)の2氏に授与すると発表した。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大を受け実用化した「mRNAワクチン」の立役者となった点が評価された。

ノーベル生理学・医学賞の受賞が決まったカリコ(左)、ワイスマン両氏のイラスト(ニクラス・エルメヘード氏、ノーベル財団提供)
ノーベル生理学・医学賞の受賞が決まったカリコ(左)、ワイスマン両氏のイラスト(ニクラス・エルメヘード氏、ノーベル財団提供)

 2018年の本庶佑氏以来となる、日本人の生理学・医学賞受賞はならなかった。

 mRNAはDNAと同じ核酸の一種で、生体内のタンパク質合成の設計図。DNAに書かれた遺伝情報を基に、タンパク質合成時に中間体として働く。人工合成したmRNAを細胞に導入すれば、ワクチンなどに利用できるとの期待が、1980年代に高まった。ただ、mRNAを細胞に導入するだけでは、そのmRNAを異物として認識する免疫反応で強い炎症が起こる。このことが分かると、ワクチンの実現は困難視された。

 両氏は2005年、mRNAを構成する物質の一つを、原子の種類は同じだが構造の違う「異性体」に置き換えることで、免疫反応を避けられることを発見した。この置き換えにより、mRNAを鋳型にしてできるタンパク質の生産量が上がることも明らかにした。こうした基礎研究の成果が、新型コロナウイルスのワクチンとして現在、世界中で使用されているmRNAワクチン開発の土台となった。新型コロナの遺伝情報が判明すると、1年足らずという異例の短期間で高い効果を示すワクチンが実現し、世界に普及した。

mRNAを構成するウリジン(Uridine)を、異性体のシュードウリジン(Pseudouridine)に置き換えることで、炎症(Inflammatory response)が起きる免疫反応を避けられる(ノーベル財団提供)
mRNAを構成するウリジン(Uridine)を、異性体のシュードウリジン(Pseudouridine)に置き換えることで、炎症(Inflammatory response)が起きる免疫反応を避けられる(ノーベル財団提供)

 mRNAワクチンは、ウイルスの表面にあるスパイクと呼ばれる突起の設計図であるmRNAを投与するもの。体内ではスパイク部分だけが作り出され、抗体が大量に作られる。これにより、ウイルスが入ってきても抗体が攻撃し、感染や発症、重症化を防ぐ。ウイルス自体は不要で、遺伝情報を基にワクチンを作れる利点が大きい。

 カロリンスカ研究所は「いくつかの別の方法のワクチンも急速に導入され、世界で130億回超ものコロナワクチンが投与された。何百万もの命を救い、多くの人々の重篤な病気を予防し、社会を復旧させた。2人は、mRNAに関する基礎的な発見を通じ、現代最大の健康危機に際し、革新的に大きく貢献した」などと評価した。

 賞金1100万スウェーデン・クローナ(約1億5000万円)が贈られ、2氏で等分する。授賞式は12月10日にスウェーデンのストックホルムで開かれる。

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