45億年前、火星に衝突した巨大な天体の破片が、いまも火星の内部にたくさん残っていることが分かった。米火星地下探査機「インサイト」が観測した地震データなどをもとに、英米などの研究グループが解明した。火星には地表のプレート(岩板)が移動するプレートテクトニクスの仕組みが存在しておらず、同じような惑星の内部構造の理解につながるという。

地球とは違いプレートテクトニクスがない火星では、プレートの動きで地殻にひずみがたまって起きる地震はないものの、熱や圧力で岩石が割れて起きるタイプの地震と、天体の衝突で起きる地震はあるとされる。地震で生じた波はさまざまな物質を通過する際に変化し、その観測データは惑星の内部を研究する手がかりとなる。火星の内部は、表面から順に地殻、マントル、核という構造をしており、インサイトが観測した地震データなどをもとにそれらの大きさや構造が研究されてきた。

研究グループは、インサイトの観測データのうち8回の地震について分析したところ、強い高周波のエネルギーを含む地震波が地下のマントルの深くまで達して明確に変化していた。地震波がマントルの遠くへと伝わるにつれて、高周波信号が大きく遅れていたのだ。
またコンピューターシミュレーションにより、こうした信号がマントル内のごく限られた領域を通った時だけ、速さを変えることを示した。これらの領域は、マントルとは異なる組成の物質の塊であるとみられる。こうした状況から研究グループは、45億年前に火星に巨大な天体が衝突した際、それらの天体や火星の破片がマントルの深くまで達し、いまも残っていると結論づけた。天体の破片が深くまで達したのは、衝突によって地殻やマントルが溶け、広大なマグマの海ができたからだという。
太陽系は46億年前にできたとされる。ガスやチリが集まって円盤状の雲に成長。ここから太陽や原始的な小天体ができた。その後、小天体が衝突と合体を繰り返して惑星に進化し、太陽の近くには地球や火星のような岩石型の惑星が並んだと考えられている。これらの若い惑星には、大小の天体が頻繁に衝突していたようだ。

プレートテクトニクスがない火星では、内部の物質循環は地球に比べ、はるかに緩やかだ。研究グループの英インペリアル・カレッジ・ロンドンのコンスタンティノス・チャラランボウス特別研究員は「惑星の内部をこれほど詳細、鮮明に観測できたのは初めて。太古の破片が今も残っていることは、火星のマントルが数十億年かけてゆっくりと変化してきたことを示している。地球では、このような特徴は(プレートテクトニクスのような地殻変動にともなって)大部分が消えたのではないか」としている。
火星のマントルに残るこうした巨大な岩石は、火星の内部や歴史を理解するための手がかりになる。また太陽系の惑星では火星のほか、水星や金星でもプレートテクトニクスは確認されていない。今回の成果は、こうした岩石型惑星の内部構造の理解にもつながる可能性があるという。
インサイトは、火星の内部構造の調査にほぼ特化した初の探査機で、米航空宇宙局(NASA)が運用した。2018年5月に打ち上げられ、11月に火星の赤道付近にあるエリシウム平原に着陸した。地震計や熱流量計、電波で内部を調べる装置などを搭載。火星表面に設置した地震計で、1319回の地震を観測するなどの成果を上げた。1970年代の米着陸機バイキング1、2号も地震計を備えたものの、探査機の上部にあってデータが不明瞭だった。インサイトが地球以外の惑星で初の、明確な地震観測となった。熱流量計を地下に埋め込む作業には失敗。2022年12月に運用を終えた。

研究グループはインペリアル・カレッジ・ロンドン、仏国立科学研究センター、米ジョンズホプキンズ大学、カリフォルニア工科大学で構成。成果は米科学誌「サイエンス」に先月28日掲載され、NASAが同日発表した。
関連リンク
- NASAプレスリリース「NASA Marsquake Data Reveals Lumpy Nature of Red Planet’s Interior」(地震データが火星内部の塊構造を明らかにした=英文)