沖縄県本島北部の瀬底島周辺の海域において、大規模なサンゴの白化現象が起きた後、ミドリイシ属という種類のサンゴで異なる種の交雑が進んでいることを、琉球大学などの研究グループが明らかにした。白化は主に海水温の上昇により、サンゴと共生する褐虫藻を失うことで起きる。大きな環境変化があってもそれに対応するように種の交雑が起きていることは、今後の気候変動における回復や保全のための知見となる可能性があるという。

琉球大学熱帯生物圏研究センターでは、1980年以降に気象庁が観測した沖縄本島沖の海水温を利用して白化のリスクを見積もった。最暖月平均水温(閾値)を超える水温を足していき、4度を超えると「白化リスクあり」、8度を超えると「白化リスク高い」と判定している。世界的に大規模な白化が起きた1998年以降、海水温上昇による白化リスクが高まっているという。

サンゴの同定は難しく、名前は同じでも国によって異なる種類のものを指していることがあり、国際的に問題になっていた。同センター瀬底研究施設の守田昌哉准教授(生物学)は、インド洋や太平洋、東シナ海などのサンゴについて、この問題の解決を以前から考えていた。
「せめて瀬底島周辺のミドリイシだけでも、種を名付けたい」と思い立ち、ミドリイシ属のサンゴを実際に詳しく観察してみた。その結果、同属の3種に極めて特徴が似ているものの、サイズや枝の先の形態が異なるものが混じって生息していることに気が付いた。
具体的には、オヤユビミドリイシ(Acropora cf.gemmifera)・ツツユビミドリイシ(Acropora cf.humilis)・サンカクミドリイシ(Acropora cf.monticulosa)といういずれもミドリイシ属に位置する種において、自然界でこの3種の特徴に似たものがあり、雑種として識別した。これらの雑種では親種に比べ、表面にある突起のサイズが異なっていたり、枝の大きさが異なっていたりした。雑種を親種と交配させると、正常に受精が起こっており、交雑の可能性が高いとみられた。

そこで、3種類のミドリイシ属の雑種について、雑種であることを確かめるために「群体」のゲノム解析を行ったところ、異なる種の間で遺伝子のやりとりが起こっていることが分かった。なお、サンゴではポリプと呼ばれる単位が集合した生き物であるため、見かけ上はひとつの個体を群体と呼んでいる。
守田准教授は先行研究で、サンゴの精子濃度を通常より低くすると、別の種との交雑が起こることを発見していた。しかしこれは実験室内での結果であって、自然現象に当てはまるかどうかが分かっていなかった。今回の研究で、自然界でも精子の濃度が低くなる、いわゆる白化のタイミングで交雑が進むということが判明した。
続いて、交雑が起きた時期を推定するため、数理モデルを用いて計算した。1998年の白化から25年以内に遺伝子が混ざっていた。1世代が4~7年ほどなので、5世代にわたって起こっていることも確認できた。特にツツユビミドリイシがオヤユビミドリイシによく交雑していた。オヤユビミドリイシはサンカクミドリイシからもやや交雑していた。

これらの結果を総合すると、白化というミドリイシ属にとって危機的な状況でも、異種間で交雑し、生き残りの戦略を取っていることが分かった。守田准教授は「ツツユビミドリイシは比較的遠い種にも遺伝子を残しているが、その理由までは分かっていない。白化前の昔のサンゴの状態を調べることができないのがこの研究の限界。今回の研究では、何を調べたらいいのかというパラメーターを決定するのに苦労した」と振り返った。
近年、海水温の高い状態が続いており、海洋環境の変化を調べると共に、サンゴの遺伝子領域の知見を得るため、今後も研究を続けるという。
研究は日本学術振興会の科学研究費助成事業の助成を受けて行い、成果は7月7日、米科学誌「カレント バイオロジー」電子版に掲載された。
関連リンク
- 琉球大学プレスリリース「白化イベント後のサンゴの適応力を支える「種間交雑」 ~ミドリイシ属サンゴにおける遺伝子浸透を解明~」