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北海道から関東の沖合に新たな地震帯、東北大などがAIを用いて発見

2025.08.29

 北海道から関東で沈み込む太平洋プレートから上に伸びる新たな地震帯である「前弧(ぜんこ)地震帯」を東北大学と東京大学などのグループが見つけた。海底地震観測網の約4年分のデータをAI(人工知能)で深層学習することで、東日本太平洋の沖合で従来分かっていた約6倍の数の地震を検出したという。

 前弧地震帯では、プレートから抜けた水がプレート境界をゆっくり滑らせて巨大地震の拡大を食い止める一方、地表近くまで上昇した水が直下型地震を起こす可能性がある。今後、地震活動の分布など特徴や水の役割をより詳細に明らかにすることで、巨大地震や直下型地震の分布や発生メカニズムの理解が深まると期待できる。

東北地方での地震活動と水の移動に関する模式図。沈み込む太平洋プレートの近くから発生した水が、場所によって巨大地震の拡大を食い止めたり、浅い断層の直下型地震を引き起こしやすくしたりする(東京大学の内田直希教授提供)
東北地方での地震活動と水の移動に関する模式図。沈み込む太平洋プレートの近くから発生した水が、場所によって巨大地震の拡大を食い止めたり、浅い断層の直下型地震を引き起こしやすくしたりする(東京大学の内田直希教授提供)

 東日本太平洋の沖合の地震について、2011年に起きた東北地方太平洋沖地震を機に、150点の地震計をケーブルで結んだ広域定常地震観測網「S-net」の運用が2016年に始まった。地震活動を震源の真上でとらえられるため、東北大学准教授だった東京大学地震研究所の内田直希教授(地震学)は、AIで自動的に高精度の震源決定ができると考えた。

 S-netのデータはあるが震源決定には用いられていなかった2016年夏から20年夏にかけて約4年間を研究対象とし、AIの深層学習で得たモデルを用いて、陸上も含めた594観測地点で得た東西、南北、上下方向の地震波形データから震源を決定。58万7585件の震源情報を得た。

 これまでに分かっていた震源情報と比較したところ、S-netが広がる地域の陸や陸に近い地域では1.2倍、沖合の地域では5.9倍の地震があった。従来よりも小さい地震を感知できるようになったうえ、沖合での震源の深さの精度が上がったという。


2016年から2020年の地震の分布。赤い四角とそれを結ぶ黒線はS-netを示す。震源の点は深さに応じて色を変えている。地震の数は、陸や陸に近いAでは1.2倍、沖合のBでは5.9倍だった(東京大学の内田直希教授提供)
2016年から2020年の地震の分布。赤い四角とそれを結ぶ黒線はS-netを示す。震源の点は深さに応じて色を変えている。地震の数は、陸や陸に近いAでは1.2倍、沖合のBでは5.9倍だった(東京大学の内田直希教授提供)

 明らかにした地震の分布を解析し、北海道、青森、岩手、宮城、福島県の太平洋沿岸海域から関東地方の下で、深さ約35~75キロにあるプレートから上に伸びる場所で地震が活発に起きていることを発見した。海溝から日本列島の火山が並ぶ「前弧」地域において帯状に地震活動が集中しているように見えることから、内田教授らは前弧地震帯と名付けた。

 この前弧地震帯を構成する地震の震源は、地下の浅い場所から深い場所にかけて(1)沈み込む太平洋プレートより浅い部分、(2)太平洋プレートの境界部分、(3)太平洋プレートの地殻(スラブ地殻)――の3領域に分かれていた。この特徴は深さにより震源を分類した平面分布地図でも確認することができる。

 浅い場所から深い場所にかけてプレートの浅い部分(左)、プレート境界(中)、スラブ地殻(右)――の3領域で見た震源分布。水色の帯が前弧地震帯を示す(東京大学の内田直希教授提供)
浅い場所から深い場所にかけてプレートの浅い部分(左)、プレート境界(中)、スラブ地殻(右)――の3領域で見た震源分布。水色の帯が前弧地震帯を示す(東京大学の内田直希教授提供)

 水は岩石の亀裂や断層の隙間に入り込むと、隙間を押し広げる力が生じて摩擦を減らす。海水がしみ込んだプレートが海溝から沈み込んで地下深くに運ばれる過程において、プレートの深さや温度による最大含水量から前弧地震帯のある深さ約35~75キロのプレートから水が分離していると判断できた。

 プレートから水が出ると、プレートの上にある岩盤との間に入り摩擦が減ることから、揺れを感じない程度にプレートがゆっくり滑る「スロースリップ」が起きてプレート境界型の巨大地震が起きなくなっていると考えられる。一方、プレートからの水が更に上昇すると、今度は浅い断層に入り込む。そうすると、断層面の隙間に入って摩擦が減り、直下型地震を起こしやすくしている可能性がある。

 今回見いだした前弧地震帯は巨大地震と直下型地震の両方に関わる「水みち」だと内田教授はしており、将来発生する地震の範囲や規模を想定する手がかりとなるという。研究は7月11日に米科学誌「サイエンス」電子版に掲載された。

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