長野県や岐阜県などの郷土料理となる昆虫食「蜂の子」の材料のひとつシダクロスズメバチのエサをDNA分析すると、エサは324種あって昆虫やクモに加えて鳥類や哺乳類などの脊椎動物が含まれることを神戸大学などが明らかにした。ハチを飼育したことのある経験者が、目撃情報などから脊椎動物など多様なエサを与えてきた妥当性を裏付けており、食文化と自然の関係性を探る上での知見となりそうだ。

長野や岐阜など中部地方には、クロスズメバチなどのハチの幼虫やさなぎをはじめ、イナゴや水生昆虫のザザムシ、カイコのさなぎをタンパク源として食べる文化がある。蜂の子は珍味としても知られており、愛好者は野外の巣を取ってきてエサを与えて巣を大きく育てて食べる。ただ、エサについては、古い調査や文学作品中で昆虫やクモ、カエルがあると分かっている程度で、詳しくは分かっていない。

学生時代からスズメバチの研究を続けている神戸大学大学院人間発達環境学研究科の佐賀達矢助教(生態学)は、各種生物のDNA情報のデータベース化が進む中、腸の内容物にある生物ごとに特有なDNA配列をバーコードのように読み取る「DNAメタバーコーディング」によって、ハチが食べたエサを調べることにした。
佐賀助教らは、中部地方の里地里山で食用となるシダクロスズメバチを対象とし、岐阜と長野で野生の巣5つ、飼育した巣7つからそれぞれ幼虫を20個体と32個体を採取した。その幼虫の腹部を開いて腸にある未消化物を分離し、DNAの遺伝子配列を調べたところ、ガやカメムシなどの昆虫やクモに加えて、カラスの仲間である鳥類、哺乳類のほか、両生類、爬虫類、魚類を含む計324種がエサとして判明した。
エサの種類の数は野生と飼育の巣でほぼ同じだったが、野生の巣では脊椎動物の検出が多く、死体をエサにしている事が分かった。飼育した巣では、エサとして与えたニワトリやシカ、ウズラのDNAが高頻度で検出された。
全ての巣から何らかの鳥、野生と飼育のほぼ全ての巣から哺乳類のDNAが検出されており、鳥類や哺乳類がシダクロスズメバチの重要なエサになっていることも分かった。愛好者が飼育する際に鳥類や哺乳類の肉を与えてきたことは、野生のエサ選択と重なっており、ハチ飼育の経験知が科学的に妥当であることを示しているという。

飼育経験者にアンケートを行うと、29人の58%が「野生巣産と飼育巣産では味が異なる」と回答している。佐賀助教は、「蜂の子の味は里地里山という生物多様性のホットスポットの生態系と深く結びついていた『環境の味』であると言える」としており、今後は季節や地域性についても調査していくという。
研究は岡山大学学術研究院環境生命自然科学学域の藤岡春菜助教と行い、5月14日に国際誌「ジャーナル オブ インセクツ アズ フード アンド フィード」電子版に掲載された。
関連リンク
- 神戸大学プレスリリース「DNA解析によりスズメバチの多様な食餌の習慣が明らかに」