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AI先駆的研究の甘利俊一氏ら3氏に京都賞 稲盛財団

2025.07.16

 稲盛財団(京都市、金澤しのぶ理事長)は2025年の京都賞を、人工ニューラルネットワークの研究を先駆し、機械学習などの基盤を築いた帝京大学特任教授の甘利俊一氏(89)、哺乳(ほにゅう)類で、父母どちらの由来の遺伝子かにより発現のオン・オフが決まっている現象「ゲノムインプリンティング」を発見した英ケンブリッジ大学ガードン研究所研究ディレクターのアジム・スラーニ氏(80)ら3氏に贈ると発表した。

甘利俊一氏(左)とアジム・スラーニ氏(稲盛財団提供)
甘利俊一氏(左)とアジム・スラーニ氏(稲盛財団提供)

 甘利氏は「先端技術部門」での受賞で、理由は「人工知能の理論的基盤を拓(ひら)く先駆的貢献と情報幾何学の確立」。動物の神経細胞(ニューロン)は、隣の細胞から受け取って処理した信号を次の細胞へと伝達する。このネットワーク構造を模したモデルで機械学習を行う仕組みが、人工ニューラルネットワークだ。甘利氏はデータから学習し適応的に分類する仕組みを理論的に整理し、機械学習の基礎的枠組みを打ち立て、発展、深化させた。統計モデルや確率分布の集合の性質を、幾何学的手法で解析する「情報幾何学」も確立。先駆的な研究により、多くの重要な理論を提唱している。理化学研究所栄誉研究員。

 同財団は「現在もなお、人工知能の進化において不可欠な役割を果たし、最先端の研究を推進し続けている。その揺るぎない研究姿勢は、研究者の模範となり、若手研究者に大きな刺激を与えている。また、理論と応用の両面にわたる貢献は、今なお極めて大きな意義を持ち続けている」と評価した。

 スラーニ氏は「基礎科学部門」での受賞で、理由は「哺乳類におけるゲノムインプリンティングの発見および分子機構の解明」。哺乳類のゲノム(全遺伝情報)には、父母どちらの由来かにより、発現するか否かがあらかじめ記憶のように刷り込まれた(インプリンティング)遺伝子が一部含まれることを発見した。これにより、片方の親に由来する遺伝子だけが発現する。スラーニ氏は、哺乳類の正常な発生には父母両方に由来するゲノムが必須であることを示した上で、これに影響を与えるゲノムインプリンティングを発見した。これらが働く仕組みも、先導して解明してきた。

 同財団は「ゲノムインプリンティングの発見および分子機構の解明は、現代の生命科学の広範な分野の基盤を形成する先駆的業績で、生命科学の発展に大きく貢献した」と評価した。

 このほか「思想・芸術部門」で米ニューヨーク大学教授のキャロル・ギリガン氏(88)が決まった。「女性の思考と行動の分析を通じて従来の心理学理論の歪みと限界を指摘し、『ケアの倫理』の新たな地平を開拓」したと評価された。

 発表は先月20日付。同賞は科学や文明の発展、人類の精神的深化、高揚に貢献した人物に贈られるもので、今回で40回目。授賞式は11月10日、国立京都国際会館(京都市)で行われ、3氏にそれぞれ賞金1億円などが贈られる。

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