海底に沈んだビニール袋5枚が底びき網に入ると、網目を塞いでしまい、小さな海洋生物が逃げられなくなっていることを長崎大学の研究グループが明らかにした。地元漁師に協力を仰ぎ、底びき網に入ったプラスチックごみとそこにかかった生物を調べ、さらに網に入ったビニール袋の影響を調査した。マイクロプラスチックなどだけでなく、大きなプラごみも海洋生物に打撃を与えることが浮き彫りになった。

海洋ごみの問題が近年クローズアップされているが、浮遊や漂着する海洋表層のごみや、マイクロプラスチックといった砕けたごみに注目が集まり、海底に沈んだごみの実態を調べた調査は少ない。
そのため、長崎大学総合生産科学域(水産学系)の松下吉樹教授(漁業科学)らの研究グループは2023~24年の4~9月、長崎市たちばな漁業協同組合のクマエビ(アシアカ)やヒラメなどを狙った底びき網漁を行っている2隻の漁船に協力してもらい、底びき網に入った海底のごみを全て回収し、材質や大きさを調べた。

その結果、プラスチック類でみると、2年間の合計でビニール袋は12.29キログラム、コンテナ類は11.02キログラム、シート類は6.36キログラムが網に入った。その他ゴム類や金属類も入っており、総重量は45.04キログラムになった。陸地の活動で生じた買い物用の袋や食品容器、農業資材などが多かった。
網に入ったプラごみを詳しく調べたところ、袋にからまっている生き物に加え、袋自体をすみかにしている生き物も見つかった。袋と一体化している貝類もいたため、松下教授は「海底のプラスチック類などのごみは海洋生態系に影響を及ぼしている」と判断した。
さらに、実験的に底びき網にビニール袋5枚を入れたところ、これらが網目を塞いで小さな魚類や甲殻類などが逃げ出せなくなった。実験では、網目を十分に抜けることができるサイズのアカエビの4割が網の中に残留した。
その他、じゃこ天の原料として知られるホタルジャコや、内湾に多いヒイラギなどの小型のものも網目を通過できず網内に残ることが確認できた。こうしたプラごみが小型生物の網からの逃避を阻害する現象は、他の小型の生き物でも同様に起こると考えられ、水産資源の管理や海洋生態系の保全に影響を及ぼしている可能性が示唆された。
長崎市たちばな漁協では、漁師の網にかかったごみは回収し、行政の補助などを利用して処分している。なお、同様の方法で調べた東京湾や鹿児島湾、東シナ海などに比べて、橘湾の海域が最もごみの量は少なかった。

それにもかかわらず漁業への影響が生じているため、松下教授は「マイクロプラスチックになって回収できないようになる前に、プラごみは捨てない、気が付いたら回収、処分する心がけが大切だ」とした。今後は海底のプラごみのサンゴや海藻のような自力で動けない生き物や植物への影響について調べるという。
研究は環境省と環境再生保全機構の環境研究総合推進費の助成で行った。成果は5月15日、オランダの学術誌「マリン ポリューション ブレティン」に掲載され、同23日に長崎大学が発表した。
関連リンク
- 長崎大学プレスリリース「長崎県橘湾の海底のごみは日本周辺の海のどこよりも少ない」