サイエンスクリップ

海底ゴミが見える「深海デブリデータベース」

2017.04.24

 「海のごみ」と聞いて、何を思い浮かべるだろうか。海岸に流れ着いたペットボトル、海に浮かぶポリ袋…。しかし、私たちが普段目にすることのない海底にもごみはある。これらをインターネット上で見られるようになった。海洋研究開発機構(JAMSTEC)国際海洋環境情報センター(GODAC)は、潜水調査船が撮影した海底ごみの映像や画像を集めたデータベース「深海デブリデータベース」を構築し、公開を開始した。

遥か遠くの海のごみが、画面上で見える!

 海のごみ(海洋ごみ)には、海岸に流れ着く「漂着ごみ」、海を漂う「漂流ごみ」、海底に沈んだ「海底ごみ」がある。漂着ごみや漂流ごみは見る機会もあり、イメージしやすいのではないだろうか。では、海底ごみとはいったいどのようなごみか。「深海デブリデータベース」は、私たちが普段見ることのない海底ゴミの実態を見せてくれる。

 データベースには、1,788件の海底ごみの映像や画像、種類、撮影日時と場所、周辺に生物がいるかどうかといった情報が盛り込まれている。これらは、JAMSTECの潜水調査船(「しんかい2000」、「しんかい6500」)や無人探査機が、深海の調査で撮影した映像や画像に“偶然映った”ごみである。

 データは、「深海デブリデータベース」のサイトで、リスト形式とマップ形式で閲覧することができる。例えば、リスト形式で「ポリ袋」のカテゴリーを選ぶと、546件のポリ袋ごみの情報がリストアップされる。

図1.深海デブリデータベースにて、リスト形式でポリ袋ごみを検索し、表示された画面 出典:JAMSTEC
図1.深海デブリデータベースにて、リスト形式でポリ袋ごみを検索し、表示された画面 出典:JAMSTEC

 リスト内のサムネイルをクリックすると、個別の情報ページが開き、映像や画像(どちらか一方の場合もある)を閲覧できる。

図2.画像の一事例(日本海 奥尻海嶺海洋海山で撮影)。ポリ袋がイソギンチャクと共に映っている 出典:JAMSTEC
図2.画像の一事例(日本海 奥尻海嶺海洋海山で撮影)。ポリ袋がイソギンチャクと共に映っている 出典:JAMSTEC

 マップ形式では、海底ごみの発見場所を地図上で視覚的に捉えることができる。例えば、「ポリ袋」のカテゴリーを選ぶと、その位置がオレンジ色の点で表される。点をクリックすると、個別のごみの情報がポップアップ形式で表示される。

図3.深海デブリデータベースにて、マップ形式でポリ袋ごみを検索し、表示された画面 出典:JAMSTEC
図3.深海デブリデータベースにて、マップ形式でポリ袋ごみを検索し、表示された画面 出典:JAMSTEC

海洋ごみ問題を意識して

 深海デブリデータベースができる以前、海底ごみの映像や画像は、JAMSTECが運営する「深海映像・画像アーカイブス」で公開されていた。しかし、深海の生物や環境のデータの中で、“海底ごみ”と一括りにされているのみだった。今回この海底ごみのデータを切り離し、ごみの種類や撮影場所などの詳細な情報を加え、独立したデータベースを構築した。半年間を要したこのプロジェクトの背景には、深刻化する海洋ごみ問題がある。

 海洋ごみには、プラスチック類や金属片などの人工物のほか、分解に時間を要する大きめの植物片や動物片などの自然物も含まれる。これらが海底にあれば、生息する海洋生物や生態系へ影響するばかりでなく、人の健康や漁業等の経済活動にも影響する。漂流ごみや漂着ごみとなれば、地域の環境や景観、船舶の航行など人的活動の妨げにもなる。JAMSTECはこのような現状を踏まえ、普段目にすることのない海底ごみを一般公開することで、海洋環境問題へのリテラシー向上につながることを期待している。

 海洋ごみ問題は、日本に限った話ではなく、地球規模で深刻化している。世界には、JAMSTECと同様の目的で、海底ごみを一般に公開する動きがある。例えば、アメリカの海洋研究者によるサイト「DeepseaDebris.org」は、北米西海岸の深海の海底ごみをマップ形式で公開している。これまでのところ、「深海デブリデータベース」ほど大規模なものはないようだが、今後この動きは進んでいきそうだ。

おわりに

遠く深い海の底で、イソギンチャクとポリ袋が一緒に映る画像に、衝撃を受けた読者も多いのではないだろうか。何気なく捨てたごみが川を流れ、海に流れ、生態系を蝕んでいく。深海デブリデータベースの公開が、個々の海洋環境への問題意識を高め、自治体や国をあげての対策につながり、海の環境の将来が上方修正されることに期待する。

※トップページ及び記事一覧ページの画像:日本海溝の水深約6280m付近で見つかったマネキンの頭部。深海生物が乗っている(「しんかい6500」第130回潜航:1992年7月19日撮影) 出典:JAMSTEC

(サイエンスライター 丸山 恵)

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