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社会経済的困窮度の高い地域ほど緑地は健康に重要 神戸大など

2025.06.19

 都市部においては、社会経済的困窮度の高い地域ほど、緑地などの自然への訪問が健康にとって重要であることを、神戸大学などの研究グループが明らかにした。社会経済的にゆとりがある地域では、緑地への訪問頻度は健康度よりも生活満足度と関連していた。地域によってことなる自然訪問の効果は、都市計画における緑地や水辺の採り入れ方を考える指標になるとしている。

 神戸大学大学院人間発達環境学研究科の内山愉太助教(都市地域環境学)らの研究グループは、都市計画や建築などの物理的な環境や空間が社会問題とどのようにリンクしているかを研究してきた。ハード面がウェルビーイング(心身の健康や幸福)といった社会格差に及ぼす影響については個人的な要素を研究したものが多く、「地域」という単位を考慮した研究は少ない。先行研究で、コロナ禍によって緑地や自然体験の価値が見直されているという知見を得られたため、今回、より詳しい属性や社会経済的困窮度といった多角的な観点から緑地と地域性の関係を検討した。

 2023年に3500人にオンラインアンケートを実施して結果を分析し、首都圏と関西圏の大都市圏に住む人々と緑地との関係性を調べた。質問項目では、収入や精神的・身体的な健康状態、婚姻状況や子どもの数、学歴や生育過程で自然と親しむ機会があったかどうかなどを尋ねた。緑地の面積は宇宙航空研究開発機構(JAXA)の衛星画像を基に作成された土地被覆データを用いて算出した。

緑地・水辺などの自然地は「ぜいたく品」として考えられる傾向があるものの、健康面や生活満足度にとって重要な働きをしている(神戸大学提供)
緑地・水辺などの自然地は「ぜいたく品」として考えられる傾向があるものの、健康面や生活満足度にとって重要な働きをしている(神戸大学提供)

 その結果、社会経済的に困窮している度合いが高い、いわゆる貧困地域では、緑に接することが健康状態と強く関連があった。困窮度が低い、いわゆる裕福な地域は、緑に接する頻度が高いほど生活満足度が高かった。

 なお、この困窮度は絶対的なものではなく、「地理的剥奪指標」と呼ばれる高齢単身世帯の割合や失業率などを基に算出した、相対的な値を用いた。そのため、必ずしも貧しいとされる地域に高所得者がいない、もしくは裕福とされる地域に生活苦の人がいないわけではない。内山助教によると、困窮度が高い地域ではジムに行ったり、ランニングをしたりするといった余暇活動をする余裕や場所などがなく、「大きなストレスを抱えている人ほど自然による健康面への効果が大きく出たのではないか」としている。

 また、自然との精神的なつながりが強いほど生活満足度は向上し、幼少期に自然と触れ合いながら育った人の方が、健康状態が良いと回答する傾向がみられた。これは日々の生活を取り巻いている自然への愛着を持ったり、知識が身についたりしているからだと考えられるが、他の研究では「大人になって緑の大切さを知っても環境への意識を変えられる」という仮説もあるため、今後より詳細に検討するという。

 内山助教によると、「日本は欧米に比べ、都市の中に森林や農地などの多様なランドスケープが存在しており、緑との共生を育むポテンシャルが高い」という。一方、「都市作りにおいて、特定の層のみをターゲットにした緑地を設けることや、そもそも緑地をぜいたく品と捉える傾向があり、公共空間としてのインクルーシブ(包括的)な緑地が過小評価されている。都市部では特に公園や河川敷などの自然地もウェルビーイングの観点から多様な人々にとって大切な空間であることが分かった」と振り返り、今後は並木や芝生、田畑の農地や樹林など、緑の種類や配置によって違いが生じるか調べる。

 研究は日本学術振興会の科学研究費助成事業と、環境再生保全機構(ERCA)の環境研究総合推進費の助成を受けて、神戸大学大学院、琉球大学、東京大学大学院、南山大学が共同で行った。成果は5月3日、オランダの学術誌「ランドスケープ アンド アーバン プランニング」電子版に掲載され、神戸大が琉球大と同月20日に共同発表した。

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