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ドローンで「空飛ぶ避雷針」実験に成功、街の被害ゼロ目指す NTT

2025.06.05

 雷雲へとドローンを飛ばし、雷を誘発し直撃させて地上の被害を防ぐ実験に成功したと、NTTが発表した。地上との間をワイヤーでつなぎ、電界強度を変化させて雷を促す仕組み。地上に避雷針を置けなくても被害を抑えると期待される。「将来的に“空飛ぶ避雷針”として活用し、雷被害ゼロの社会を目指す」という。

実験に使った“空飛ぶ避雷針”ドローン(NTT提供)
実験に使った“空飛ぶ避雷針”ドローン(NTT提供)

 国内の落雷被害額は年間推定1000億~2000億円。避雷針が広く使われるが、効果の範囲が限定的で、また風力発電の風車や屋外のイベント会場など、設置が難しい場所も多い。こうした中、研究グループはドローンで雷を誘発して被害を抑える技術を目指し活動。人工の雷に続き、実際の空に発生する雷雲を使う実験に踏み切った。

 実験は冬季の雷で知られる日本海側、島根県浜田市の山間部で実施した。昨年12月13日、雷雲が接近し地上の電界強度が高まったのを受け、ドローンを高度300メートルまで飛ばした。続いて地上のスイッチを入れ、ドローンと地上がワイヤーで通電する状態にした。その結果、ワイヤーに大電流が流れ電界強度が大きく変動。直前にはワイヤーと地面の間に2000ボルト以上もの電圧が生じており、ドローン周囲の電界強度を急変させ雷を誘発することに成功した。ドローンで雷を誘発したのは世界初という。

実験結果。スイッチを入れるとワイヤーに大電流が流れ、雷が誘発された。電界強度が大きく変動した(NTT提供)
実験結果。スイッチを入れるとワイヤーに大電流が流れ、雷が誘発された。電界強度が大きく変動した(NTT提供)

 ドローンはアルミ製のパイプで囲うことで、雷による大電流が迂回(うかい)する構造にしており、雷の後も安定して飛行した。また雷の電流を放射状に流すことで、発生する強い磁界を打ち消しあい、ドローンへの磁界の影響を抑える構造にした。このドローンは、自然の落雷の平均値の5倍に相当する150キロアンペアの人工雷を起こしても無事だった。

 雷雲の高度が比較的低い冬季雷で実験したが、上空2~3キロと高めの夏の雷雲でも、周囲の建物などより高くドローンを飛ばせば効果があると考えられるという。

雷誘発の原理。地上のスイッチを入れ、ドローンの周囲の電界強度を変化させる(NTT提供)
雷誘発の原理。地上のスイッチを入れ、ドローンの周囲の電界強度を変化させる(NTT提供)

 研究グループのNTT宇宙環境エネルギー研究所レジリエント環境適応プロジェクトの長尾篤主任研究員は会見で「雷の発生を予測する位置にドローンを飛行させ、安全に誘発することで、街や人を守ることを目指している。今後は成功率を上げるため、高精度の発雷位置予測や、雷発生の仕組みに関する研究開発を進める。将来的には、充電装置による雷エネルギーの蓄積、活用も目標にしている」と説明した。成果は4月18日に発表した。

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