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免疫拒絶のない「my iPS細胞」を全自動で作製へ iPS財団

2025.04.03

 免疫拒絶なく移植可能な自己由来の人工多能性幹細胞(iPS細胞)の製造施設を京都大学iPS細胞研究財団(iPS財団)が4月中にも稼働する。細胞製造を閉鎖型培養装置で全自動化しコストを下げる。早ければ2028年にもヒトでの臨床研究・治験に着手。将来的には免疫抑制剤の使えない難治性疾患、小児の希少疾患での利用を中心に、患者などドナー1人あたり約100万円で治療に使える「my iPS細胞」を提供することを目指している。

「Yanai my iPS製作所」には、血液の細胞からiPS細胞を作って凍結保存する機器が並ぶ(大阪市北区の中之島クロス内)
「Yanai my iPS製作所」には、血液の細胞からiPS細胞を作って凍結保存する機器が並ぶ(大阪市北区の中之島クロス内)

 iPS細胞は再生医療をはじめとする細胞移植治療や薬の開発で利用が期待できる一方、手作業に頼っているため、製造に時間とコストがかかるという課題がある。iPS財団は「最適なiPS細胞技術を良心的な価格で届ける」という理念で2019年に設立された。

 同財団では免疫拒絶が起こりにくいHLA(ヒト白血球型抗原)型をもつ健常なボランティアの血液から製造したiPS細胞や、ゲノム編集技術でより免疫反応のリスクを下げたiPS細胞をストックし、臨床研究用として提供していた。

 免疫拒絶の観点では、患者自身の細胞からiPS細胞を作って「自家移植」するのが最良だ。ただ、患者から新しいiPS細胞を作るには、現状では4人以上のチームが数カ月間、数千万円をかけて行う。この時間とコストの課題を解決するため、財団では「年間1000人分の細胞を製造可能で1人分100万円程度で提供する施設を設置し、2025年3月ごろに実用化することを目指す」とした「my iPS細胞プロジェクト」を立ち上げていた。

Yanai my iPS製作所の入り口。名称には寄付をしたファーストリテイリングの柳井正会長兼社長の名字を冠している(大阪市北区の中之島クロス内)
Yanai my iPS製作所の入り口。名称には寄付をしたファーストリテイリングの柳井正会長兼社長の名字を冠している(大阪市北区の中之島クロス内)

 iPS財団の塚原正義研究開発センター長によると、時間とコストの課題解決には、閉鎖型培養装置と全自動化が必要だ。閉鎖型であることにより、作業員の更衣が簡易になる。手作業をなくして全自動化すれば、菌の混入や取り間違いといった人為ミスが起こりにくくなる。少量で多品種の製造も可能となる。塚原センター長は「手作業の良さは認めるが、iPS細胞製造を産業化するには、熟練作業者がしていたことを誰でもできるように数値で表して自動化することが必要だ」と話す。

 製作所では、当初はがん治療に用いるCAR-T細胞を自動培養する装置13台を使って、血液から凍結保存できるiPS細胞ストックまで製造する。自動培養装置については、財団とキヤノン、キヤノンメディカルシステムズが新たな装置の開発も進めている。

キヤノングループなどが開発するiPS細胞製造装置。細胞取り出しに遠心力を用いたり、スプレー噴射の力で培養皿から細胞をはがしたりする(大阪市北区の中之島クロス内)
キヤノングループなどが開発するiPS細胞製造装置。細胞取り出しに遠心力を用いたり、スプレー噴射の力で培養皿から細胞をはがしたりする(大阪市北区の中之島クロス内)

 患者からのiPS細胞ができても、それを治療が必要な器官や組織で使える細胞に分化させ、ガン化しないかなど安全性を確認する必要もある。細胞の分化誘導やモニタリングは、製作所に先んじて大阪市北区の中之島クロス内にできた「my iPS研究所」が担う。現在は保存したiPS細胞から、特定の細胞に分化させる研究などを進めているという。

my iPS研究所では、iPS細胞を患者らが治療を必要とする器官や組織にある特定の細胞に分化誘導させる技術を研究している(大阪市北区の中之島クロス内)
my iPS研究所では、iPS細胞を患者らが治療を必要とする器官や組織にある特定の細胞に分化誘導させる技術を研究している(大阪市北区の中之島クロス内)

 製作所は、iPS細胞の歴史や製造、利活用に関する展示スペースを設けており、ガラス越しに臨床用iPS細胞製造施設を見学できるようになっている。4月10日に医薬品医療機器総合機構(PMDA)による適合性調査をうけ、製造許可を得られれば、再生医療等安全性確保法に基づく臨床用自家iPS細胞製造施設として稼働する。財団では、6月20日にmy iPS細胞プロジェクトに45億円の寄付をした、ユニクロを展開するファーストリテイリングの柳井正会長兼社長を招いて開所式をしたいとしている。

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