人工知能(AI)の深層学習を用いて、顕微鏡で撮影した組織画像からアルミニウム合金の強さを予測する技術を産業技術総合研究所(産総研)のグループが開発した。合金開発では膨大な実験と評価が必要とされる中、画像のみで強さを予測できると、多様な元素を含むアルミ合金をリサイクルする際、用途に合った材料を開発する上で役立つという。

アルミ合金は、用途によって合金に加える元素を変える。例えば、強さを上げるためには銅やマグネシウムなどを加える。しかし、加える元素やその量によって強さが下がったり腐食しやすくなったりすることもある。
用途に応じた高性能なアルミ合金を開発するには、実際に元素を計って加えた合金の試験片を作って物性を調査するが、元素の数や量の組み合わせは多岐にわたるため、調査に時間がかかる。そのため、多様な元素が含まれるアルミ合金をリサイクルする時には、用途が缶材や鋳造用などにほぼ限られている。
ただ、新しくアルミ合金を作るよりもリサイクルして再生品を作った方が温室効果ガスの排出を減らすことができる。産総研の村上雄一朗主任研究員(金属工学)は、2022年に産総研が開発した窒化ケイ素セラミックスの壊れにくさをAIが予測する技術をリサイクルアルミ合金でも応用できないかと考え、古嶋亮一研究グループ長(組織制御学)が深層学習AIの開発を担った。

強さを予測するために、ケイ素や銅、マグネシウムをはじめとした11元素の組成が特徴的なアルミ合金10種について、2つの異なる鋳造方法で金属塊をつくった。金属塊の異なる場所から試験片を切り出し、引っ張りに対して破断するまで耐える「引張強度」や破断するまでの変形量を示す「伸び」などのデータを得た。試験片を切り出すとともに、光学顕微鏡の一種で特殊な光の当て方をする金属顕微鏡で微視組織画像を撮影。その画像を元にして増やした画像を深層学習に用いた。
AIで構築した、組織画像と機械的特性を関連付けるモデルを用いて、学習に用いた組織画像とは異なる画像から引張強度や伸びを予測すると、実際の測定値に大まかに一致した。

AIの予測値と測定値は大まかにしか一致しないが、村上主任研究員は「材料が用途にあう強さを持っているかどうか当たりを付けることができ、見込みのない材料は評価せずに済む」と言い、合金の開発で材料評価に関する工程が減り、効率化が期待できるという。研究論文は、3月1日付けの科学誌「アクタ マテリアリア」に掲載された。
関連リンク
- 産総研:研究成果記事一覧「AIにより画像からアルミニウム合金の強さを予測」