国際科学技術財団は22日、2025年の日本国際賞に、電子・光デバイスに広く使われる化合物半導体の大規模生産法を開発した米ジョージア工科大学のラッセル・デュプイ教授(77)と、海洋生態系が吸収する炭素「ブルーカーボン」を、特に沿岸植生域が貯留していることを解明したサウジアラビア・アブドラ王立科学技術大学のカルロス・ドゥアルテ特別教授(64、スペイン国籍)の、2氏を選んだと発表した。授賞式は4月16日に行う。

デュプイ氏は「物質・材料、生産」分野で受賞する。情報化社会を支える端末や機器類には、さまざまな半導体デバイスが使われている。複数種類の元素を組み合わせた化合物半導体は多彩な特性を発揮し、発光ダイオード(LED)や半導体レーザー、太陽電池などを実現している。デュプイ氏は1970年代に、化合物半導体の製法として有機金属化合物ガスを原料とする「有機金属気相成長法(MOCVD)」に注目した。困難視される中でも装置に独自の工夫を重ね、高品質の単結晶薄膜を効率よく作れることを実証した。作製したデバイスが優れた実用特性を示すことを示し、大規模商用生産に導いた。
同財団は「デュプイ氏が突破口を開いた化合物半導体生産の商用化は、現在の情報化社会の基盤となったばかりではなく、今後の社会の発展にも欠かせない役割を果たしていくものだ」と評価した。
ドゥアルテ氏は「生物生産、生態・環境」分野。海洋環境の悪化が深刻化する中、炭素吸収源としての海洋生態系の重要性を研究。塩生植物やマングローブ、海草が生えた沿岸植生域は全海洋面積の0.5%に過ぎない。しかしこれらの海底が、全海域のブルーカーボン堆積量の半分を、1000年以上にわたり貯留することを発見した。沿岸植生域は炭素を吸収して隔離、貯留する最大の“ブルーカーボン貯蔵庫”だ。2005年にこのことを発表し、世界に大きな衝撃を与えた。
ドゥアルテ氏は沿岸植生域の保全、再生活動も行い、「海洋生態系をうまく利活用することが、持続可能な未来の鍵になる。今はその岐路にある」と指摘。同財団は、こうした取り組みに対し「未来への希望として、海洋生態系の保全、再生に向けた活動が広がる契機になっている」と評価した。
日本国際賞は独創的、飛躍的な成果で科学技術の進歩、人類の平和と繁栄に大きく貢献した科学者を顕彰するため1981年に設立。85年に初回授賞式を行った。今回は国内外約1万5500人の科学者や技術者の推薦による221件の候補から両氏を選んだ。賞金1億円が、それぞれに贈られる。
関連リンク
- 国際科学技術財団プレスリリース「2025Japan Prize(日本国際賞)受賞者決定」