自然の中の生物はまことに多様で、生命力にあふれている。東日本大震災の大津波で破壊された仙台湾の海岸林では、新たに生物多様性が生みだされていることを、東邦大学理学部の西廣淳(にしひろ じゅん)准教授と卒業生の遠座(おんざ)なつみさんらが植生調査で見いだした。今後の防災事業でこの生物多様性をどう確保していくかが問われることになりそうだ。2014年11月発行の日本生態学会誌「保全生態学研究」で発表した。
研究グループは2013年7月と10月、大津波でかく乱された仙台市の海岸林の植生を調査した。大震災の大津波から2年余、植林作業がまだ始まっていない地域を調査対象とした。海岸林の植物の多様性は壊滅していないだけでなく、「津波が生みだした生物多様性」が浮かび上がった。
仙台市の海岸には、津波で押し倒された倒木林と、倒れずに残った残存林が約50mの幅で交互に存在していた。倒木した場所では草原性の植物が、残存林では以前と同じ下生えの植物が生育していた。津波の前からあった陸側の後背湿地は、ほとんど残存していた。海岸林を構成するクロマツが津波で倒れて生じたくぼ地は、絶滅危惧種のイヌセンブリやタコノアシの生息地になっていた。
海岸林として環境が均質だった場所で、津波のかく乱に伴って環境の異なる場が出現し、多様な植物種の生育が可能になって植生が回復しつつあった。こうした仙台市の海岸では、広範囲にわたって一様に2〜3mの盛り土をして、クロマツを植林する防災事業が急速に進められ、津波後の生物多様性が再び失われようとしている。
西廣淳准教授は「人々が安全に自然の恵みを受けながら暮らすためにも、生物多様性を大事にしたい。環境アセスがないまま、埋め立て土木工事のような画一的な海岸の植林事業は乱暴すぎる。海岸林を再生させる場合も、いま急速に回復しつつある多様性豊かな自然を活用していく方法を探り、防災と環境保全を両立させるべきだ」と提言している。



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