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H3ロケット、3機連続打ち上げ成功 防衛通信衛星を搭載

2024.11.05

 大型ロケット「H3」4号機が4日午後3時48分、鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げられた。防衛省の防衛通信衛星「きらめき3号」を所定の軌道に投入し、打ち上げは成功した。H3は2001年から運用中の「H2A」の後継機。昨年3月に1号機が失敗したのを受けて対策を講じ、今年2月の2号機、7月の3号機に続く成功となった。3機連続となり、新世代ロケットとして安定性を世界に示す道筋がついた形だ。

きらめき3号を搭載し打ち上げられるH3ロケット4号機=4日、鹿児島県南種子町の種子島宇宙センター(JAXA提供)
きらめき3号を搭載し打ち上げられるH3ロケット4号機=4日、鹿児島県南種子町の種子島宇宙センター(JAXA提供)

 H3は打ち上げの約5分後に1段、2段機体を分離した。2段エンジンの燃焼を2回にわたり正常に行った後、打ち上げの約29分後、きらめき3号を静止遷移軌道に投入した。

 会見した宇宙航空研究開発機構(JAXA)の山川宏理事長は「三菱重工業など関係企業と共にH3の着実な開発を進め、日本の宇宙輸送システムとして自律性を維持し、国際競争力を確保し、また打ち上げ実績を積み重ねることで信頼を獲得するべく、実直に取り組んでいく」と述べた。有田誠H3プロジェクトマネージャは「非常に大きな一歩。搭載した衛星の重要性を考えても、非常にホッとしている」と笑顔を見せた。

 H3はH2Aと、2020年に運用を終了した強化型「H2B」の後継機。2段式の液体燃料ロケットで、1~4号機の全長は57メートル、衛星を除く重さ422トン。H3の最大能力はH2Bの6トンを上回る、6.5トン以上(静止遷移軌道、赤道での打ち上げに換算)だ。JAXAと三菱重工業が共同開発。H2A、小型の固体燃料ロケット「イプシロン」とともに、政府の基幹ロケットに位置づけられる。将来的には打ち上げ業務を、H2Aと同様にJAXAから同社に移管し、市場に参入する。

 4号機の機体構成は3号機までと共通で、1段エンジン2基、固体ロケットブースター2基を装備した。H3による静止衛星の打ち上げは今回が初めてとなった。衛星にかかる負荷を軽減するため、1段エンジンの推力を一時的に絞って加速度を抑える「スロットリング」を3号機に続き実施した。

打ち上げに成功し、沸く管制室=4日、種子島宇宙センター(JAXA提供)
打ち上げに成功し、沸く管制室=4日、種子島宇宙センター(JAXA提供)

 きらめき3号分離後には、衛星を高度約3万6000キロの静止軌道の近くまで届ける技術を検証するため、2段機体の飛行データを取得した。この技術はH2Aで2015年に「高度化」と称し実現したもので、H3では当初から仕様に盛り込んでいる。一般に、ロケットが静止衛星を投入するのは、静止軌道の“手前”にある静止遷移軌道だ。衛星はその後、自力で静止軌道まで到達する必要がある。静止軌道は赤道上空にあるため、赤道付近に発射場を持つ欧州が打ち上げに有利だ。そこで2段機体を、衛星を載せたまま長く飛行させる技術により、国産ロケットの“地理的な弱点”を克服する狙いがある。来年度にも打ち上げる「技術試験衛星9号機」で初適用する。

 H3の1号機は昨年3月に打ち上げられたものの、2段エンジンに着火できず失敗した。原因は2段エンジンの電気系統の異常。JAXAなどが異常の発生シナリオを3通りに絞り込み、全てに再発防止を施して2号機以降、成功を続けている。

 4号機は当初、先月20日に打ち上げを計画した。しかし、H2Aの49号機が悪天候で延期を重ねた(9月26日打ち上げ成功)ことや、エンジンのバルブの異常を受けた部品交換と点検、悪天候により、延期を繰り返した。政府の宇宙基本計画工程表によると、H2Aは50号機が今年度中に温室効果ガス・水循環観測技術衛星を打ち上げて退役する。

 きらめき3号は2008年から運用中の民間通信衛星「スーパーバードC2」の後継で、降雨などに妨げられにくく、妨害や傍受の対策が取りやすい周波数帯の「Xバンド」を採用した。開発費は打ち上げや運用を含め約700億円。通信を高速化、大容量化することで、自衛隊の作戦部隊の指揮統制や作戦情報支援などに役立てる。

 既にXバンドのきらめき2号を2017年、同1号を18年に打ち上げており、これで防衛省独自の3基体制が整った。陸海空の各自衛隊は互いに通信方式が異なるが、これらを一元化して広域の統合運用能力を高め、有事即応体制の強化につなげる。2基の運用により、既に国連平和維持活動(PKO)やアフリカ東部ソマリア沖の海賊対処活動などで効果を発揮しているという。

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