宇宙ベンチャー、アイスペース社(東京)は月面探査計画「ハクトR」着陸機の2機目を、12月にも打ち上げると発表した。1機目は昨年4月、着陸を目前に高度の認識を誤って月面に激突しており、再挑戦となる。最終試験中の機体を報道陣に公開し、代表者は「課題と真摯(しんし)に向き合い、改善の努力を惜しまず進んできた」と自信を見せた。
2機目は「レジリエンス」(英語で回復力の意味)と命名した。足を展開した状態の高さは約2.5メートル。外観は1機目と似ているが、側面に「テネシアス」(粘り強い)と名付けた小型探査車を搭載した点が大きく異なる。月面用水電解装置や人気ロボットアニメ関連の合金プレートなど、国内外の企業や大学の計6つの機器や物品も搭載した。
テネシアスは同社の欧州法人が開発したもので、月面の砂を採取し、所有権を米航空宇宙局(NASA)に譲渡する月資源商取引を計画している。
米フロリダ州から米スペースX社のファルコン9ロケットで打ち上げ、4~5カ月かけ月面を目指す。着陸地点は「氷の海」の中央付近、北緯60.5度、西経4.6度に決定した。
1機目は昨年4月、日本初、かつ民間世界初の月面着陸に挑んだものの失敗した。原因は、降下中に高度の推定値と測定値の乖離(かいり)が拡大し、機体のソフトウェアが、ほぼ正確だった測定値の方を異常と判断し棄却したためだった。事前に着陸地点を変更しており、航路上の地形の検討が甘かったことも要因という。
この反省を受け、レジリエンスでは着陸時の制御のソフトウェアを基本的に維持しつつ、飛行経路のシミュレーションを重ね、起こり得る事象を詳しく評価。それらの影響を受けても機体が対応できるよう調整したという。氏家亮最高技術責任者(CTO)は12日の会見で「大きな変更はしていないが、詳細を詰めて改善した」と説明した。
日本初の月面着陸は今年1月、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の「スリム」が、民間初も2月に米インテュイティブ・マシンズ社の「ノバC」が、それぞれ機体が横倒しの状態となりながらも実現している。
袴田武史最高経営責任者(CEO)は「(1機目で)深宇宙を航行した機体を着陸直前まで制御でき、技術的な信頼性を十分に実証した。1番になれればありがたかったが、それが全てではない。ただ最初のグループにいることは重要で、2年、3年と遅れないよう、しっかり(レジリエンスで着陸を)実現したい。何回も繰り返し月に行くことを目指している」とした。
同社は月に存在するとされる水の探査や資源としての活用などを通じ、宇宙空間でのインフラの構築、経済圏の実現を長期の事業目標に掲げている。