海洋性の非硫黄紅色光合成細菌を破砕・乾燥処理しバイオマスにしたものを窒素肥料として利用できることを、理化学研究所(理研)などのグループが明らかにした。コマツナを室内栽培して実証した。市販の有機肥料と比較して窒素分が豊富な肥料になる。無機肥料の代替品として京都大学発ベンチャー企業が同様の細菌を培養し量産化を図り、生産販売を進めている。
理化学研究所環境資源科学研究センターバイオ高分子研究チームの沼田圭司チームリーダー(京都大学大学院工学研究科教授、高分子科学)らは、海の表面付近に漂い、赤潮にもいる非硫黄紅色光合成細菌が空気中の二酸化炭素や窒素から有機物をつくることに着目。育苗ポットでコマツナを育てるときに肥料として加えるとどれくらい効果があるかを計ることにした。
非硫黄紅色光合成細菌をバイオマス化した肥料を土に混ぜて育苗ポットに入れ、コマツナの育ち具合を肥料のない土や無機肥料(化成肥料)を入れた土と比較した。肥料が無くても発芽はしたが、無機肥料と比べて窒素量が8倍を超えるバイオマス肥料を土に入れると発芽や生育が進まなくなった。窒素過多とみられる。
35日間コマツナの苗を育て、苗(個体)あたりの乾燥重量を調べると、高温(22~32度)、低温(15~25度)のいずれで育てた時も、窒素量換算で無機肥料より2倍を施肥したときに無機肥料と同等の生育になった。
肥料として用いた非硫黄紅色光合成細菌について、植物の生育に特に必要とされる、窒素、リン酸、カリウムの含有量を計測すると窒素は約11%、リンは約3%、カリウムは約0.5%だった。沼田教授によると市販の有機肥料は窒素含有量が5%程度で、非硫黄紅色光合成細菌の肥料は窒素量の多い肥料にできる。沼田教授は「従来使用されている堆肥のような有機肥料と比べて一酸化二窒素(N2O)や二酸化炭素(CO2)といった温室効果ガスの排出量も少なくできそうだ」とする。
京都大学発ベンチャーのシンビオーブ(京都市)が同様の細菌で量産化に取り組んでいる。空気を資源とする新しいゼロカーボン窒素肥料であり、農業向け肥料としての販売を目指している。
研究は、京都大学などと共同で、科学技術振興機構(JST)共創の場形成支援プログラムの支援を受けて行い、成果は科学雑誌「npjサステイナブルアグリカルチャー」電子版に6月7日付けで掲載された。
関連リンク
- 理化学研究所プレスリリース「光合成細菌を窒素肥料に」