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「暗い太陽のパラドックス」が解けたかもしれない

2017.12.18

 太陽は、私たちにとっては生命の源でもある特別な星だが、宇宙全体からみれば、「主系列星」というグループに属する、ごくありふれた恒星のひとつにすぎない。誕生から消滅までの過程も、かなり正確に分かっている。それによると、今から40億年あまり前に太陽や地球が誕生した直後には、太陽は現在に比べて2〜3割ほど暗かった。

 すると、困ったことになる。この条件だと太陽からの熱が足りず、地球は全体が凍りついてしまうはずなのだ。ところが、地球に残っている過去の氷河の跡などを調べてみると、そのころの地球は寒くはなかった。現在より暖かかったとさえ考えられている。その理由については、さまざまな説がある。大気に温室効果ガスがたくさん含まれていて猛烈な地球温暖化が起きていた、地球はもっと効率よく太陽の熱を吸収していた、……。だが、どれも決め手に欠けていた。なぜ弱い太陽で地球は暖かかったのか。はるか大昔のこの矛盾を「暗い太陽のパラドックス」という。

 このパラドックスを解決する方法をコンピューターによる計算で見つけたのが、米ジョージア工科大学の尾﨑和海(おざき かずみ)研究員らの研究グループだ。特殊な光合成を行う2種類の細菌が当時の海に共存していたとすると、気温を上げる温室効果の高いメタンガスがたくさん発生し、弱い太陽でも地球は暖かくなれるというのだ。

 尾﨑さんらが注目したのは、「水素資化性光合成細菌」と「鉄酸化光合成細菌」だ。光合成というと、植物が光のエネルギーを使って、水と二酸化炭素から栄養分と酸素を作る反応と説明される。この反応では、電気を運ぶ「電子」が必要で、水は電子の供給源として利用されている。電子の供給源に水ではなくて水素や鉄を使うのが、「水素資化性光合成細菌」と「鉄酸化光合成細菌」だ。この光合成では酸素は出ない。地球の酸素は、後に普通の光合成をする細菌が登場してから増えたと考えられているので、この2種類の細菌だと、その点でもつじつまが合う。

 海洋微生物の生態系、大気中での化学反応、地球の気候変化などを表す数式を、コンピューターで解いた。その結果、温室効果ガスである二酸化炭素が現在の50倍以上あれば、それにメタンの温室効果が加わって地球は暖かくなることが分かった。海中に共存している2種類の細菌の相乗効果で、結果として大気中のメタン濃度が大幅に高まるのだ。太陽の光が弱くても、もう地球は凍っている必要はない。暗い太陽のパラドックスを解く有力な選択肢が生まれたのだ。

 過去の気候が研究者の興味をかきたてるのは、「2種類の地球」という説があることも理由のひとつだ。地球の気候には、太陽からやってくる熱が同じでも、「暖かい地球」と「冷たい地球」の2通りが存在しうるという話だ。そして、そのどちらが実現するかは、過去の状態で決まる。もし過去の地球が、全体が凍結するような「冷たい地球」だったら、現在のように太陽がパワーアップしても「暖かい地球」の状態には乗り移れないかもしれない。地球の気候は、そもそもそういう性質を持っている。

 今から6億5000万年ほど前の地球は全体が氷に覆われていたが、現実には、そこから脱している。それに、地球の気候は大気の温室効果も考える必要がある複雑なシステムで、話はそれほど単純ではない。最近は、地球上の一部に氷河が存在する現在のような状態も加えた「3種類の地球」を考えるべきだという説もある。それにしても、地球が過去の気候の歴史を引きずっていることは、おそらく間違いない。

 現在の地球は、なぜこの状態なのか。太古の地球環境を探った尾﨑さんらの研究は、この根源的な問いに新たな視点を与えるとともに、地球外生命の存在条件についても再考を促しているといえそうだ。

図 光合成をする2種類の細菌による物質の流れ。水素資化性光合成細菌と鉄酸化光合成細菌が海中に共存することで、大気中に温室効果ガスのCH4(メタン)が増える。CH2Oは光合成で作られる栄養分、H2は水素。(尾﨑さんら研究グループ提供)
図 光合成をする2種類の細菌による物質の流れ。水素資化性光合成細菌と鉄酸化光合成細菌が海中に共存することで、大気中に温室効果ガスのCH4(メタン)が増える。CH2Oは光合成で作られる栄養分、H2は水素。(尾﨑さんら研究グループ提供)

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