元素として重さが中程度といえるチタンの原子核では、個々の陽子と中性子が独立に中心の周りを回る「殻構造」が支配的だが、ごく外側でヘリウム原子核に相当する「アルファ(α)粒子」を含む「αクラスター構造」を持つことが分かった。大阪公立大学の研究グループが、理論計算と実験データの分析から解明した。中心からの距離により構造が変わるという、原子核の新たな見方を示した。
ヘリウムの原子核は陽子と中性子が2個ずつ、核力によって強く結びついた塊で、特別にα粒子と呼ばれる。原子核内にα粒子が存在するαクラスター構造とみなせる。
一方、原子核からα粒子が飛び出し、より安定した原子核に変わる「α崩壊」という現象がある。元素の中でも陽子や中性子が多く重い、放射性元素で起こる。例えばラジウムでは陽子と中性子の各2個が出るため、原子番号が2小さいラドンになる。
ただし重い元素の原子核ほど、αクラスター構造ではなく殻構造がよく成り立つと理解されてきた。これでは陽子と中性子がバラバラでα粒子が成立せず、α崩壊が説明できない。理論物理学者のジョージ・ガモフが1928年に仮定の下で説明したものの、未解明だ。
また、軽くも重くもない中程度の重さの元素の原子核が、αクラスター構造と殻構造のどちらになっているか、研究者の間で議論となってきた。
そこで研究グループは、中程度の重さといえるチタンの同位体のうち、天然に存在する割合が最も高いチタン48について、原子核の構造を検討した。独自に、殻構造とαクラスター構造を同時に表せる数理モデルを構築。これを使い、チタン48に粒子を高速で衝突させる計算をすることで、原子核の構造を解析した。このデータを別のグループによる実験データと比較し、検証した。
その結果、チタン48の原子核は中心から外側にかけて大部分が殻構造となっているが、ごく外側ではαクラスター構造が現れることを突き止めた。量子力学的には、ごく外側でαクラスター構造の成分があるといえる。
α崩壊を起こす元素の原子核の実験データがまだ不十分といった理由で今回、先にチタンを検証した。殻構造を持つとみられてきた放射性元素がα崩壊を起こす謎の解明に対し、示唆的な知見が得られたとも考えられる。
研究グループの大阪公立大学大学院理学研究科の堀内渉准教授(原子核理論)は「実験データは前からあったが、誰も気づかなかった。われわれの解析方法によって原子核構造の転移が初めて示され、新しい見方が与えられた。α崩壊が起きる仕組みの解明のヒントになるのでは。今後、より重い原子核も調べたい」と話している。
成果は米物理学会誌「フィジカルレビューC」電子版に5月24日に掲載され、大阪公立大学が同29日に発表した。
なお、原子核の重さの認識は研究分野により、また必ずしも明確ではないが、原子核構造を考える上では概ね、カルシウムまでが軽い原子核と考えられるという。殻構造の本来の読みは「かくこうぞう」だが、原子核構造と混同しないよう便宜的に「からこうぞう」とも読まれている。
関連リンク
- 大阪公立大学プレスリリース「チタン原子核の構造が中心からの距離で変化することを発見 人類の原子核に対する新しい見方を提示」