ニュース

3800万年前のシロアリが現代と同じ求愛行動 琥珀内の姿から分析 沖縄科技大

2024.04.23

 約3800万年前の琥珀に閉じ込められたシロアリのオスとメスが、現代のシロアリと同じ様式で「求愛行動」をすることが、沖縄科学技術大学院大学の調査で分かった。シロアリのペアは相手が動けなくなっても同じ場所にとどまることも確認できた。絶滅した種の行動様式について時代を超えて分析できるのは稀少。生物の群れの行動の進化の過程や、協調行動の様式を調べる足がかりにしたいという。

 沖縄科技大の元研究員で、現在チェコ科学アカデミーのアレシュ・ブチェック博士が海外の化石を集めたサイトで、2匹のシロアリが入った琥珀を見つけた。琥珀の中に1匹がいるものは多いが、2匹が同時に閉じ込められているものは珍しい。科学的価値を認識して購入し、届いた琥珀の中のシロアリの化石をX線マイクロCTで観察した。

 X線マイクロCTは、琥珀に含まれる気泡を透かして、内部にいる生物の3次元画像を得ることができる。画像を解析すると、2匹はオスとメスの「つがい」で、メスの口にある味覚受容体がオスの腹部に触れている詳細な姿が確認できた。

樹脂が固まった琥珀の中に閉じ込められた2匹のシロアリ。右写真のうち、左がメスで右がオス(アレシュ・ブチェック博士提供)
樹脂が固まった琥珀の中に閉じ込められた2匹のシロアリ。右写真のうち、左がメスで右がオス(アレシュ・ブチェック博士提供)

 この琥珀は含まれていた岩石の年代測定から、約3800万年前のものと推測している。琥珀に入ったシロアリの種類は既に絶滅していることが確認できている。現代に生息するシロアリとは約1億年以上前に「科」が分岐しているので、分類としては離れた種類といえる。だが、この閉じ込められた姿を基に、現代のシロアリに共通する生態がないかどうか、沖縄科技大のグループが研究を始めた。

 現在、日本や中国、台湾に広く分布し、米国には外来種として侵入している「イエシロアリ」は、成虫になると飛び回り、求愛のために羽を落として歩いてパートナーを探す。無事にカップルになると片方がもう一方を追いかけるように一緒に歩く「タンデム歩行」をする。

 タンデムとは2人乗りのバイクや自転車に用いられる用語で、シロアリも新しい巣を求めてタンデム歩行し、巣が見つかるまで離ればなれにならないようにする。3000種類以上いるシロアリのほとんどがこの歩行をするという。沖縄科技大の元研究員で米オーバーン大学の水元惟暁助教(行動生態学)は琥珀内の2匹のシロアリの姿から「現代のシロアリが、同じ行動様式を祖先から受け継いだ」と考えた。

イエシロアリのタンデム歩行の様子。片方の口と触覚をもう片方に接触させ、離れないように歩く(アレシュ・ブチェック博士提供)
イエシロアリのタンデム歩行の様子。片方の口と触覚をもう片方に接触させ、離れないように歩く(アレシュ・ブチェック博士提供)

 ただ、水元助教は琥珀の2匹が縦並びのタンデムではなく、横に並んだ様子になっていることを不思議に思った。また、樹脂はゆっくりと流れ落ちて琥珀になるので、1匹が樹脂にはまった場合、もう1匹は逃げられるはずなのに、逃げ出さない理由も分からなかった。そのため、樹脂に見立てた粘着板でイエシロアリのつがいを歩かせて、どのような行動を取るか観察した。

樹脂が木を流れ落ちる過程で琥珀として閉じ込められるシロアリのイメージ図(チェコ科学アカデミーのアンナ・プロホロヴァ博士提供)
樹脂が木を流れ落ちる過程で琥珀として閉じ込められるシロアリのイメージ図(チェコ科学アカデミーのアンナ・プロホロヴァ博士提供)

 すると、1匹が動けなくなったときに、もう1匹も一緒にもがくように横に移動していく様子が見て取れた。つがいでないシロアリを粘着板で歩かせるシミュレーションを解析すると、この行動は見られない。つまり、シロアリはペアの相手を見捨てずに一蓮托生することが分かった。捕食者に遭遇すると通常は逃げるが、粘着性のある表面では危険を察知できずに樹脂に巻き込まれたのではないかとみている。これにより、琥珀の中で見つかったシロアリが一緒に閉じ込められた理由も説明でき、その協調行動が世代を超えて受け継がれていることが分かったという。

 水元助教は「2個体で一緒に協調して歩く、単純な群れ行動の様子が確認できた。タンデム歩行が他にもどんな多様な行動様式を取るのか、今後も研究したい」とした。

 研究は日本学術振興会の‎科学研究費助成事業を受けて行われた。成果は米国科学アカデミー紀要電子版に3月5日に掲載され、同月6日に沖縄科学技術大学院大学が発表した。

関連記事

ページトップへ