溶血性連鎖球菌(溶連菌)が原因となって臓器や組織が急速に壊死(えし)する「劇症型溶血性連鎖球菌感染症」(STSS)の患者数が、高い水準で推移していることを国立感染症研究所が明らかにした。過去最多だった昨年を上回る勢いで、毒素量が多く感染が広がりやすいとされる株も検出されているという。厚生労働省も警戒し、手指の消毒など基本的な感染対策の徹底を呼びかけている。
STSSの初発症状は咽頭痛、発熱や食欲不振、吐き気、全身倦怠感などだが、急激に進行して循環器や呼吸器の不全、血液凝固異常、肝不全や腎不全など多臓器不全を起こす。このため、溶連菌は「人食いバクテリア」とも呼ばれる。
致死率は30~70%と高く、感染症法で全数把握疾患と定められている。2023年の死者は97人で、19年の101人に次いで多かった。23年7~12月中旬に報告された死亡例は、50歳未満の患者68人のうち21人だった。
同研究所によると、1月1日から3月17日までにSTSSの患者521人の報告があり、昨年の941人の半数をこの時点で既に超えた。厚労省によると、STSS患者は例年100人前後から多い時で数百人だったが、昨年の941人は記録が残る1999年以降で過去最多だった。
溶連菌は健康な人の皮膚やのどにも存在する菌で、球形の細菌が連鎖状につながっている。血液を溶かす性質があることからその名がついた。咽頭炎などを引き起こすことで知られている。感染経路は接触や飛沫(ひまつ)で、子どもから高齢者まで幅広い年齢層で発症する。この段階では命に関わることはまずないが、STSSになると危険だ。
溶連菌にはいくつかの種類があり、劇症型としてはA群、B群、C群、G群などが知られる。同研究所によると、3月17日までに報告があったSTSS患者のうち、A群が335人、B群が56人、C群が7人、G群が93人、群不明が30人だった。A群患者は3月に入ってやや減少傾向にはあるものの、昨年を含めた例年より多いペースという。
A群患者335人の性別の内訳は男性192人、女性143人。年齢別では20歳未満13人、20代6人、30代22人、40代46人、50代44人、60代68人、70代76人、80代以上60人と加齢とともに増える傾向にあった。
同研究所はA群をさらに細かく分類した際のM1型のうち、毒素の産生量が多く、ここ十数年英国で多く報告されている株(M1UK系統株)が検出されていることを重視している。3月25日現在の集計では、1月1日以降全国でM1UK系統株分離が43例あり、うち千葉県で8例、神奈川県で7例、茨城・埼玉・長野の3県でそれぞれ4例あり、関東圏での検出、分離が目立っている。
この菌は飛沫(ひまつ)や接触により感染するため、厚労省によると、手指の消毒やマスク着用など、新型コロナウイルス感染症予防対策で知られる「せきエチケット」が重要で、菌の侵入経路となる手足などの傷口を清潔に保つことも有効だという。
咽頭炎などを引き起こす通常の溶連菌感染症が、どのような要因で命に関わる劇症型に移行するかはよく分かっていない。一方、一般的な溶連菌感染症は子どもを中心に、新学期が始まる時期と冬に流行する傾向があり、同省は劇症型への移行、感染拡大に注意が必要としている。
STSSが昨年から現在まで増加傾向にあることについて同省は、新型コロナ対策が昨年5月以降緩和されてから呼吸器感染症が増加し、溶連菌咽頭炎患者も増えていることが関係している可能性もあるとしているが、詳しい要因は不明だ。
関連リンク
- 国立感染症研究所「国内における劇症型溶血性レンサ球菌感染症の増加について」
- 厚生労働省「劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)」