天井裏や配管が並ぶ建物内部の狭い空間での点検の際、天井面を這(は)うようにして長時間進むことができるドローンを東京都市大学と東急建設のグループが開発した。ドローンは回転翼があるため、天井すれすれを飛ぶと気流の吹上げの影響で衝突、落下する危険がある。この動きを逆手に取り、天井面を安定的に移動できる形状にした。実用化に向け段差のある建築構造物や橋の下など風が吹き付ける場所でも進める実験に取り組むという。
ドローンは通常、何もない空間で飛ぶときは回転翼によって吹き下ろしの風が生じる。他方で、上方が壁に近づくと気流が入れ替わり、吹き上げの風が生じる「天井効果」が生じることが分かっている。さらに、下方が壁に近づくと吹き下ろしの風が面に反射して浮き上がる「地面効果」が生じる。これまで天井効果と地面効果はドローンにとって厄介なものとされ、ドローンの上下が狭いと壁に衝突するために、なるべく壁面から離れて飛ぶことが推奨されてきた。
東京都市大学理工学部機械工学科の西部光一准教授(流体力学)は「壁にぶつかるくらいならいっそ壁を這わせてはどうか」と考え、同大機械システム工学科の関口和真准教授(制御工学)と共に「天井吸着移動型ドローン」を開発した。関口准教授は直線に進むだけでなく、旋回することも可能なように制御した。
この天井吸着移動型ドローンは本体に車輪と撮影用カメラ、ライトがついており、滑るように這って進む。天井に近づけば近づくほど吹き上げる風が生まれるため、本体を支える形となり天井に沿って進むことで安定性が増す。浮遊しなくても良いため消費電力を3割ほど抑えることができ、従来型に比べて3割長く飛行することが可能になったという。
また、気流がかき乱されないので、地面にたまったほこりが舞い上がることがない。安定して面を進むので、カメラの画像がきれいに撮影できるといった利点がある。天井効果・地面効果の解消のためにロボットを投入することも検討されてきたが、ラジコンのように簡単に操作できる手軽さとコストの面からドローンの方が有利としている。
東急建設によると、狭い空間の点検には機械ではなく人が必要とされてきた。とりわけ雨水ますのように長時間水が停滞する場所の点検では、酸素濃度が薄かったり、硫化水素が発生したりするリスクがあるため、厚生労働省令に基づき酸素欠乏・硫化水素危険作業主任者という有資格者を置く必要があり、人手不足も課題だったという。
西部准教授は「過去にドローンを天井に近づけようという発想や研究がなかったことが成果につながった」とし、関口准教授は「狭いところでは強い風が吹き付けないため、不安定さがなくなるが、今後は広い空間や強風の下でも制御できるように開発を進めたい」とした。
成果は2023年9月に開かれた第41回日本ロボット学会学術講演会と、同10月開催の第66回自動制御連合講演会で発表し、東京都市大と東急建設が同12月12日に共同発表した。
関連リンク
- 東京都市大学プレスリリース「建築物の天井裏などの狭所空間で、安定かつ長時間飛行が可能な「天井吸着移動型ドローン」を開発」
- 東急建設プレスリリース「建築物の天井裏などの狭所空間で、 安定かつ長時間飛行が可能な「天井吸着移動型ドローン」を開発」