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透明で曲げられるエアロゲルを開発 次世代断熱材として期待、京大など

2024.02.05

 ガラスにほぼ匹敵する透明さがあり、しかもよく曲げられるエアロゲル(低密度多孔体)を開発した、と京都大学などの研究グループが発表した。エアロゲルは熱伝導率が低く断熱性に優れ、省エネルギー材料として期待されるが、壊れやすいという難点があった。材料にシリコーンを使ったほか、触媒などを工夫して実現した。省エネルギーにつながり、建築や芸術などに利用が広がりそうだ。

左から、窓などに使われる一般的な「並ガラス」、実験器具などの「白ガラス」、新たに開発したエアロゲル。ガラスに近い透明さを実現した(京都大学提供)

 窓の断熱性を高める方法として、ガラスを二重にしたペアガラスがある。また断熱材にはグラスウールやポリマーフォームなどが多く使われている。エアロゲルの熱伝導率はこれらの断熱材の半分と、高い断熱効果を持つものの、壊れやすいため大規模な工業生産や利用が難しい。また窓に使うには、ガラスのような透明性が求められる。

 研究グループは既に2007年、一般的な材料のシリカではなく、有機物が加わり軟らかいシリコーンを使ったエアロゲルの作製に成功。圧縮する変形に対しても壊れにくく、形が元に戻る特質を発揮している。さらに曲げる力に対する強度を高め、取り扱いやすいものを目指して研究を進めてきた。

 シリコーンの骨格となる原料にモノマーの「メチルトリメトキシシラン」を使い、重合反応させてエアロゲルを作った。均一な網目構造を作るため界面活性剤を、ゲル化を促すため触媒に有機強塩基を、それぞれ使った。こうした工夫により、直径4~10ナノメートル(ナノは10億分の1)の繊維状の骨格、5~20ナノメートルの細孔ができ、曲げる力に対して高い柔軟性を示した。

 従来の製法では球状の粒子のつながりで壊れやすかったのに対し、繊維状の骨格が絡み合った構造にしたことで、よく曲げられるようになった。有機強塩基によってpH(水素イオン濃度指数=酸性・中性・アルカリ性の指標)を適切に制御し、重合体を小さく整え、均質な多孔構造ができて高い透明性を実現した。

(左)繊維状の骨格が絡み合った構造の顕微鏡画像、(右)曲げる力に耐える柔軟性を確認した実験(いずれも京都大学提供)

 エアロゲルの研究は世界的に盛んだが、その多くは強度を高めるため、透明性や多孔性を犠牲にしてきた。これらが両立するエアロゲルは、世界初の報告となったという。

 課題は圧縮や曲げだけでなく、さらに剪断(せんだん=ずれ)をはじめとする他の変形に対する強度を高めること。さまざまな力に対して強いエアロゲルができれば、利用が進みそうだ。透明性も、現状ではガラスにやや及ばない。また製造上の最大のネックは、仕上げに乾燥させる際、高温高圧の「超臨界」と呼ばれる状態の二酸化炭素を使うことだ。常温常圧で済む、簡単な乾燥法を目指す。

 研究グループの京都大学大学院理学研究科の金森主祥(かずよし)助教(材料化学)は「発表されてきたエアロゲルの中で、(くもりの度合いを示す)ヘイズ値が最低のものの一つとなった。ユニークな材料を社会に応用させたいと思い、これまでの作りにくさ、扱いにくさを変えることに挑戦している。今回は一定の進歩。建築などのデザイン性を高めるだけでなく、文化や芸術にもつながりそうだ」と話している。

 成果は英科学誌「ネイチャーコミュニケーションズ」に1月11日掲載され、京都大学が19日に発表した。研究は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)戦略的省エネルギー技術革新プログラムの一環として、同大発ベンチャー企業のティエムファクトリ(茨城県茨城町)と共同で実施。科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業の支援を受けた。

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