昨年9月に打ち上げられた、日米などのエックス線天文衛星「クリズム」が初めて撮影した画像が5日公開された。銀河集団同士の衝突の全体像や、星が爆発した痕跡のガスが含む元素を精細に捉えた。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の担当者は会見で「衝撃的な高解像度。桁違いに多い情報が得られ、科学者の仕事が増えてワクワクする」と話した。
天文衛星(宇宙望遠鏡)は地上の望遠鏡と違い大気の影響を受けないため、高精度に観測できる。エックス線は可視光より短い電磁波の一つで、高いエネルギーで熱く激動する天体や現象を捉えるのを得意とする。日本は1979年に打ち上げた「はくちょう」以来、エックス線衛星6基の運用経験を持つ。7基目のクリズムは宇宙空間を吹く高温ガス「プラズマ」の成分や動きを測ることを通じ、100個程度以上の銀河の集団「銀河団」の成り立ちや、さまざまな元素の誕生などの解明につなげるという。
クリズムは米国が開発した2つの望遠鏡にそれぞれ、広い視野を持つ国産のエックス線CCDカメラ「エクステンド」と、エックス線のエネルギーを詳しく測る日米欧共同開発の分光装置「リゾルブ」を取り付けている。高度約550キロを周回して観測する。
この日公開されたのは、昨年10月14~24日にエクステンドで撮影した約7億7000万光年の距離にある銀河団「エイベル2319」の画像と、先月4~11日にリゾルブが捉えた、約16万3000光年離れた大マゼラン星雲の超新星残骸「N132D」のガスが含む、元素の種類や量のデータ。超新星残骸とは、星が一生の終わりに爆発した痕跡をいう。
エクステンドは従来機のカメラの4倍にも及ぶ広視野を強みとし、衝突しつつある銀河団の全体像を捕捉。銀河団が持つプラズマの分布も明瞭に表現した。リゾルブも、2015年まで運用した衛星「すざく」が搭載した装置の30倍の高精度で、ケイ素や硫黄、アルゴンといったさまざまな元素の量や状態を細かく示すことに成功した。
クリズムチームはJAXA宇宙科学研究所(相模原市中央区)で会見。科学研究主宰者の田代信プリンシパルインベスティゲータは「すざくの開発にも携わったが、リゾルブは同じ物を見たとは思えないほどの高解像度で、何度見ても衝撃的。エクステンドの視野は狙った天体以外も捉えるほど広く、何が見えてくるのか非常に楽しみだ」と期待を高めた。
クリズムは、2016年に運用ミスで失ったエックス線衛星「ひとみ」の代替機として、約277億円(日本負担分。100億円規模とみられる打ち上げ費用を含む)をかけ開発された。月面着陸機「スリム」と共に大型ロケット「H2A」に搭載され、昨年9月7日に打ち上げられた。来月には初期機能確認から定常運用に移行し、科学観測を本格化する。ただリゾルブの保護膜の開放にはまだ成功しておらず、今後、再挑戦する。チームは「仮に膜が覆ったままでも影響は限定的。画期的な成果が期待できる」とみている。
前島弘則プロジェクトマネージャは、ひとみの事故を受けた改善策を説明。「(失敗を)決して繰り返さない決意をし、システム作りを着実にしており、これまではうまく運用できている。定常運用でもその仕組みでやれば寿命を全うし、良い成果を出せる」と、今後に向け気を引き締めた。
一方、スリムも順調に航行し先月25日、月上空の周回軌道への投入に成功した。今月20日未明、日本初となる月面軟着陸に挑戦する。
関連リンク
- JAXAプレスリリース「X線分光撮像衛星(XRISM)のファーストライトと運用状況について」
- JAXA「X線分光撮像衛星XRISM(クリズム)」
- JAXA「SLIM(スリム)PROJECT」