おうし座の、地球から6500光年離れた有名な天体「かに星雲」の中心で高速回転する星「かにパルサー」は、周期的に明るくなる「パルス」をさまざまな光で出している。パルスのうち特に劇的なものが、電波だけでなくエックス線でも起きていることを観測で発見した、と理化学研究所などの国際研究グループが発表した。劇的なパルスが従来の認識よりはるかに大きなエネルギーを出していることが判明。パルスの仕組みの理解や、宇宙の遠方から謎の強い電波が届く現象の解明などにつながる成果として注目される。
質量の大きな星が一生を終えて大爆発を起こすと超高密度の星「中性子星」が残ることがある。1968年に発見されたかにパルサーもその一つで、電波やエックス線などの光を出しながら、毎秒30回も自転している。地球からみるとパルスを打つように増光して見えることから、パルサーと呼ばれる。
かにパルサーが光を放つ仕組みはよく分かっていない。電波が時折、通常より10~1000倍も明るくなる現象「巨大電波パルス」も未解明。パルサーでは電波とそれ以外の光では発生の仕組みが異なるため、そのような劇的な増光は電波でしか起きないと考えられてきた。ところが2003年、かにパルサーで巨大電波パルスとともに可視光が数%明るくなる現象が発見された。よりエネルギーの大きなエックス線やガンマ線でも増光するかどうか、研究者の関心を集めてきた。
その結果、巨大電波パルスが発生する瞬間にエックス線のパルスが4%増光することを発見した。4%はわずかでも、エックス線のエネルギーは電波よりはるかに大きい。このことから、かにパルサーは巨大電波パルスの発生時、従来の認識よりも数百倍以上、大きなエネルギーを出していることが分かった。
巨大電波パルスの仕組みをめぐっては、高密度のプラズマが関わっているなどとする理論モデルがあるが、今後はエックス線の増光を説明できるようにする必要があるという。また巨大電波パルスは、宇宙の遠方から一瞬、強い電波が届く謎の現象「高速電波バースト」の正体であるとの見方があったが、今回の成果によりエックス線のエネルギーが大き過ぎることが分かり、説明が難しくなった。
研究グループの理化学研究所の榎戸輝揚チームリーダーは会見で「高速電波バーストの正体はもっと別のものを考えなさい、と示された。中性子星の一種で、非常に強い磁場を持つ『マグネター』が似た現象を起こすことが最近分かり、有力視されている。われわれの成果もそれと一致する。ただ、中性子星以外である可能性も排除されておらず、これから面白くなっていく」と述べた。
研究グループは理研のほか東京大学、広島大学、台湾・国立彰化師範大学、JAXA、NICT、米航空宇宙局(NASA)などで構成。成果は米科学誌「サイエンス」に9日に掲載された。
関連リンク
- 理化学研究所プレスリリース「宇宙の灯台「かにパルサー」に隠れていたX線のきらめき」