今年7月、開発中の小型固体燃料ロケット「イプシロンS」2段機体の燃焼試験中に爆発が発生したのは、点火器の部品が溶けて機体内部に飛び散り、断熱材を損傷したことが原因だったとする調査結果を、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が文部科学省の有識者会合である宇宙開発利用部会に報告した。
爆発はJAXA能代ロケット実験場(秋田)で7月14日に発生した。イプシロンSの3段構成のうち、2段機体を約2分間燃焼する計画で点火したが、約20秒で燃焼圧力が予測を上回り始め、約57秒で爆発した。機体は散乱、炎上し、試験を実施した真空燃焼試験棟が大破した。
JAXAが原因を識別して絞り込む「故障の木解析」を進め、機体輸送時を含む再現実験などの検証を重ねた。その結果、燃焼試験開始後に(1)点火器の部品であるステンレス製の「イグブースター」の一部が想定外に溶融して機体内部に飛び散った。(2)溶融物が機体と燃料の隙間に入り込んだ。(3)燃料を覆っていた断熱材が損傷し、その部分の燃料に着火して加熱が進んだ。(4)そこから機体内側の断熱材の焼損が進み、ついには機体が許容温度を超え爆発した――と、原因と仕組みを特定した。機体内部では、機体と燃料のどちら側も断熱材に覆われており、双方の間に設計上、隙間があったという。
対策として、イグブースターに溶融を防ぐための断熱材を巻くことにした。また6月に実施した3段機体の燃焼試験でも、爆発には至らなかったものの同型のイグブースターが溶融しており、同様の対策を施す。今後、イグブースターや点火器、2段機体の燃焼試験を順次行っていく。
なお、3段機体の試験では燃料をほぼ使い切った段階で溶融物が飛び散ったため、爆発に至らなかったとみられている。3段の試験でイグブースターが溶融していながら、翌月に2段の試験に踏み切った経緯などは調査中という。
イプシロンSは運用を終了した「イプシロン」の改良型で、引き続き内之浦宇宙空間観測所(鹿児島)で打ち上げる。政府は、年内にも改訂する宇宙基本計画工程表の検討案で、来年度後半の初号機打ち上げを目指すとしている。爆発のあった能代の試験棟は再建が必要となるため、2段機体の再試験はJAXA種子島宇宙センター(鹿児島)の試験設備で行う可能性があるという。
従来型イプシロンの最終6号機は昨年10月、姿勢制御装置の燃料タンクの部品がちぎれて配管が詰まり、打ち上げに失敗している。今月12日の宇宙開発利用部会でJAXAは、イプシロンSの燃焼試験爆発の原因に加え、この失敗を受けた設計変更も報告した。部会後、JAXAの井元隆行プロジェクトマネージャは報道陣に「事実に基づき判断し、着実に検証できた。失敗や爆発の過去は変えられないが、未来は変えられる。未来の成功に向け、気を引き締めて開発を続けていきたい」と話した。
関連リンク
- 文部科学省宇宙開発利用部会(第80回)資料「イプシロンSロケットの開発状況について」
- JAXA「イプシロンロケット」