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安定なベンゼンから誘導体を合成、酸化剤+紫外光で穏やかに 東京農工大

2023.12.18

 安定な有機化合物であるベンゼンに酸化剤を加えて紫外光を照射すると、穏やかな条件で窒素を含む誘導体が合成できることを、東京農工大学大学院農学研究院応用生命化学部門の岡田洋平准教授のグループが実証した。これまで可視光を用いる方法があったが、紫外光の方が酸化剤の使用量を減らせた。医薬品や化粧品、機能性材料などの原料であるベンゼン誘導体を安価につくることが期待される。

人間の日焼けサロンでも使われている紫外光を当てるだけで反応は進む(東京農工大学提供)

 利用した酸化剤はDDQ(2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-p-ベンゾキノン)。ベンゼンに加えて可視光を当てると、フェノールやアニリンなどの有用な物質に変わる。DDQは反応後に失活し、よみがえることはない。1つのベンゼンに対して1つのDDQを用いる必要があり、大量にベンゼンを反応させるには、同じ量のDDQが必要だった。

 DDQを用いない場合は、パラジウムやイリジウムなどの高価な金属を触媒としたり、高温・高圧下で化学反応を促したり、と環境に負荷の大きい方法が採られてきた。

従来のDDQを用いたベンゼンの反応。可視光ではベンゼン1つに対してDDQ1つを使う必要があった(東京農工大学提供)

 岡田准教授は従来から環境に優しい化学反応を目指しており、「可視光でDDQは反応するので、波長の短い紫外光ではうまくいかないだろう」という予想を確認することにした。窒素を含む環式化合物とベンゼンを反応させる際にDDQを加え、波長350~360ナノ(ナノは10億分の1)メートルの紫外光を用いると、意外なことにベンゼンのアミノ化反応が促進された。しかも、ベンゼン1つに対してDDQの使用量を従来の5分の1以下に減らせることが分かった。

今回の実験の模式図。DDQの使用量を減らす環境負荷の低い方法だ(東京農工大学提供)

 この反応は常温常圧でも、紫外光さえあれば進む。岡田准教授は今回の反応について、本来DDQは反応が終了すると役目を終え、可視光を吸収しないが、紫外光なら吸収するためにDDQの機能が復活しているのではないかという仮説を立てている。岡田准教授は紫外光を用いたことからこの反応の流れを「日焼けしたベンゼン」と説明している。

「日焼けしたベンゼン」を使って合成したベンゼンの誘導体の数々(岡田洋平准教授提供)

 岡田准教授は「私の研究の理想は光合成で、植物が日光さえあればエネルギーを生み出すように、化学反応においても高温高圧でない場所で自然に化合物を得られること。今回の発見を基に、他にも環境負荷が低い反応のバリエーションを増やしていきたい」とした。

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